活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
よしもとばなな『ひとかげ』
よしもとばなな『ひとかげ』幻冬舎、2006、137p、1200-

『とかげ』リメイク。
私立の、児童専門クリニックのアシスタントをする「私」の、
心の中でのかの女の呼び名は「とかげ」だ。
わたしが通うスポーツクラブでインストラクタをしていたとかげは、
その後その職を辞し、整体師になった。
「あることを忘れないため」に、自らを苦行に置いていくかの女と、
愛しあう両親の間の子どもではないということと、
自分が母を殺したのだという自責を身のうちに抱え続ける「私」との、
そんなに明るくない、目に見えるように再生したり前向きになったりしない、
地味な話(笑。
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このリメイクは正解だと思う。
『とかげ』も悪くないけど、こっちの方がだんとつに深い。
設定がやっぱり若いので、今のよしもとの作品よりはだいぶ非日常だけれど。
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  「また会ってください。」
  私は言って、彼女の手を取った。
  どうしてもどうしてもさわりたくて、気が狂うほど、もういてもたっても
 いられなくて、彼女の手に触れることができたらもうなんでする、神様!
  そう思った。そう思ってしまった。自然も不自然もない。
 せざるをえなかった。思い出したのだ。ほんとうはそういうものだった。
  なんとなく気があるふたりがいて、なんとなく約束して、夜になって、
 どうする? となって、今日あたりなんとなくいけるとお互いが暗黙の
 打ち合わせをしている……そんなのはみんなインチキだ。
 そんな余地があるだけインチキだった! そう叫び出したくなった。
  ほんとうはただ抱きしめたくて、触りたくて、キスしたくて、
 少しでも近くに行きたくてたまらなくて、一方的にでもなんでも、
 涙が出るほどで、今すぐ、その人とだけ、その人じゃなければだめだ、
 それが恋だった。思い出したのだ。(35.12-36.12)
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長い引用をしてしまった…
★★★
2007.4借
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よしもとばなな『はじめての文学』
よしもとばなな『はじめての文学』文藝春秋、2007、
252P、1238-

キッチン/「おかあさーん!」/おやじの味/バブーシュカ/
ミイラ/ともちゃんの幸せ/デッドエンドの思い出


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文藝春秋から出る、「はじめての文学」全10巻のうちの第3巻。
ラインナップは村上春樹、村上龍、よしもとばなな、宮本輝、宮部みゆき、
浅田次郎、川上弘美、小川洋子、重松清、桐野夏生、山田詠美、林真理子。

ああ、なんちゅうか、文学って何?みたいな感慨に浸れる面々だ(笑。
第1回配本だった春樹を読みたい。何がセレクトされてるんだろ。
で、このメンツの中で女性の切り込み隊長になったよしもとに乾杯。

よしもとの作品の中では、「おやじの味」「ミイラ」のみ未読。
しかし、「キッチン」は本当によくできた作品なんだな、と、
こう並んでみると特に思う。
もちろんどんどん磨きはかかってるし、ハラに響くというか肝に届くというか、
読者である身の根幹に働きかけるパワーみたいのは強くなってってるし、
うん、確かに全体でいうとうまくなってる、っていうんだろうけれど、
結局よしもとがいいたいことや、
書かざるを得ないと筆を執る、そのモチベーションの源、みたいなものは
既に「キッチン」に全て含まれているのだな、と。
↑しかし悪文だなあ(笑。
今回、かなり久々に1文1文読んでみると、若いころとはまた別の味わいが。

そして、もちろんそれらが繰り返し繰り返し描かれることには大きな意味があるし、
繰り返されることによって強くなるわけなので、
「なんだ、全然かわんないんじゃん」で、片づける気は毛頭ない。
あと、あとがきがやたらよくて、ちょっと涙ぐんだ。

   私は、実際に会ったら、ケチでずるく腹も出てるし白髪も目立つ単なる
  口の悪い子持ちのおばさんですが、現実ではなく、小説の世界では
  言葉で魔法を使います。そこだけは大人として信頼できる点です。
   それは、現実のせちがらさを忘れるためにウソを描いてみなをだまそうと
  しているのではなく、この世に生まれたことをなんとか肯定して
  受け入れようではないか、だいたいが面倒で大変なことばかりだけれど、
  ふとしたいいこともあるではないか、そういうことを言葉で表したいのです。
  同じ時代の中で、そんな魔法をこれからも創り続けていきます。(256.1-8)

なんか、自分でそれいっちゃだめじゃん(笑、と思いつつ、
こういう真っ正直さがいいんだろうなあ、とも同時に思ったり。

★★★
20070407借。
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よしもとばなな『海のふた』
よしもとばなな『海のふた』株式会社ロッキング・オン、2004、
181P、1500-


東京の短大を卒業し、地元の伊豆でかき氷屋を営む主人公まり。
地元は、かつての温泉保養地としてのにぎわいをすっかり失い、
景色とともに人々の心も、うつろにさびれていくようだった。
まりはその地元で、何かきちんと生きていこうと、
大好きなかき氷屋を始めたが、母の古い友人の娘はじめちゃんが、
ひと夏、まりの家に預けられることになる。
幼少期に負った大きなやけどの後を持つはじめちゃんは、
資産家であった祖母の死と、その死に始まる親戚の中での争いに
すっかり落ち込み、海のそばで一時の休養を取ることになったのだ。

強い日差し、熱い空気、海からの湿度、潮の香り、くたくたになるまでの
肉体労働の中で、ふたりは深く互いの心に沈降し、みずからの姿勢を
確認し、その向かうところを見つけていく、飽かざる日常の物語。
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夏という時間の特殊性、みたいなものの書き方は秀逸としかいいようがない。
その「夏度」(笑)は『N・P』に匹敵するかな。
何か大きなものをなくした人が、深い悲しみの中でいろいろと見つめ直す、
っていうモチーフは、もうよしもとの十八番で、逆にいうと長編では
それ以外のこと書いてないんじゃね? くらいなのだけれど(笑、
だからどうした、さすがの十八番。
いいな、と思うのは、傷ついた人が何かをきっかけに、うそみたいに回復したり
しないし、むしろ何度も揺り返しが来る中で、それでもだんだんと上向きに
なっていく、というプロセスがきちんとあることや、
その日常がおろそかにされない、日常に戻っていくことを希求する姿勢が
貫かれていること、かなと最近思う。

★★★
20070407借。
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よしもとばなな『みずうみ』
よしもとばなな『みずうみ』フォイル、2005、206p、1200-

近郊地方都市で、そこそこ美人のバーのママと、その街の名士であるパパとの
私生児として生まれ育った主人公ちひろは、街を嫌い、都内の美大に進学する。
卒業後、壁画作家としてなんとか食べていけるくらいにはなってるちひろは、
近所に住む、理系の院生中島くんと、なんとなくなかよくなる。

中島くんは外が嫌いで、外で食事をするのが苦手で、肉体的接触が怖くて、
夜中にときどき悲鳴を上げて飛び起きたり、亡くなったおかあさんの話を
冷や汗を流しながらする、というような、ワケありの人だったが、
静かにゆっくりと、ふたりの気持ちは寄り添い始める。
まるでみずうみのように。
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どうしてこんなにしんどいときに、こんなに濃ゆい本を借りちゃうかな(笑。
別に中島くんが抱えている具体的な過去がどうとかいうんじゃなくて
1行1行が、看過を許さない感じ。
ちょっと考えろ、っていわれてるのかも(何を? 誰に?)
と、よしもとかぶれなコメントを書いてみる。

そう遠くないうちに再読すると思うな。
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ちひろが、大学時代からの友人に、中島くんの話をするシーン。

「なんの勉強をしてるんだっけ?」
「染色体の研究って言っていたけれど、それが具体的になにをすることなのか、
 実は全然わからないの。今はヒト21番染色体導入によるダウン症候群の……
 なんとか……という論文を書いているらしいけれど、むつかしくて、
 いくら説明を聞いてもわからないんだよね。だいたい英語で書いてるもんね。
 だから、盗み読むことさえもできないのよ。」
「覚えることさえできないくらいむつかしいんだね。あんたが全然わかってないと
 いうことだけはわかったわ。でも、彼のいちばん大事にしていることをそんなに
 わけがわからないわりには、けっこう続くね。」
「そうなのよ、せめて文化人類学とか民俗学とかフランス文学とかで
 あってくれたら、どんなにかよかっただろうと思うんだけれど。」
「まだ、多少は理解できるものね。」          (51.9-52.3)
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あ。そうですかそうですか(笑。

★★★
2007.3.9借
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吉本ばなな『マリカの永い夜/バリ夢日記』
吉本ばなな『マリカの永い夜/バリ夢日記』幻冬舎、1994、
254p、1300-



医師をやめたばかりのジュンコ先生は、
もと患者と一緒にバリ島に向かっている。
先生の、医師としてのキャリアのほぼ全てであるもと患者は、
世間的にはマリカと呼ばれる、20歳の女性だ。
10年前にふたりが出会ったときは、
マリカはまだいくつもの人格の背後で眠り続けていた。

その後、マリカを守るいくつかの人格がかの女に統合された。
最後に残るオレンジという13歳の少年と、マリカとともに、
先生はバリ島に向かっているのだ。
聡明なオレンジは、まもなくマリカが自身を必要とせず、
苦しみながらひとりで生きていく道を選択することを知っている。
バリ行きは、オレンジにとっても、マリカにとっても、
もちろん先生にとっても、どうしても必要な旅だったのだ。
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すみません、なめてました(笑。
気楽ーに読もうと思ってた。何しろ「夢日記」の方は、
吉本のバリ旅行記なんだもん(笑。

しかし、ページを繰った途端、その気楽さは消し飛ばざるを得ない。
ものすごく、ディープな話。
まさか、多重人格者の少女と、その主治医、まもなく少女の人格に
統合されようとする(または少女を離れて別の場所に行こうとする)
別人格の少年との、3人旅の話だなんて思わないじゃない(笑。

バリ島というロケーションが、この小説のとても大事な部分であることは
想像に難くない。が、たとえ違う場所を舞台としていても、
この話はきちんと機能したであろう、という安心感がある小説。
オレンジが、先生宛てと、先生に託したマリカへの、2通の手紙は圧巻。
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「日本で生活していてどうしても電波のように入ってくるなにかの中で、
いやおうなく自分を守りながら生きて行くしかないのが、
都市生活者のかなしいところだ」(253.13-254.1)

都会っていう異常な場所を、それ以外の場所と同列に見ちゃいけんよな。
うん、だから都市民俗学は必要よね(笑。

★★★と半
20070307借
小説 作家 よしもとばなな / comments(0) / trackbacks(0)
吉本ばなな『虹』
吉本ばなな『虹』幻冬舎、2002、192p、1400-

『不倫と南米』みたいな旅シリーズ。
ていうかこれ、シリーズなのか(笑。

家業の食堂をずっと手伝っていた主人公が、ある都内の
お店に魅了され、そこに就職し、都会であるが故の
わけのわからない人間関係や環境などに翻弄されつつ、
ちょっとずつ人生の焦点が合っていく話。
パタンとしてはばななの王道なわけだが、どうしてこの人の話は
こんなにも深く響くんだろうね。

中学とのときから吉本を読み始めて、高校の頃『アムリタ』で突然、
おもしろくない、と思い、それから遠ざかっていた。
昨年から読み直してみて、俄然そのおもしろさに再びはまってく感じ。
『アムリタ』は再読してないけど、なんだろ、高校時代の自分がこれを
おもしろくないと感じたのは、自分よりも吉本の方が、さきにぐぐっと
大きくなってしまって、当時の自分はそれを受け止めきれなかったから、
ではないだろうか、と、漠然と思ったり。
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ああ、同じだ、猫も犬も人間も、みんなひとつの心臓を持って生まれてきて、
毎日を精一杯生きているだけだ、なのになぜ、人間だけが
こんなにややこしくなってしまうんだろう…(181.13-182.1)

★★★
2007.2借
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よしもとばなな『王国』その2
よしもとばなな『王国』その2 痛み、失われたものの影、
               そして魔法
新潮社、2004、141p、1100-


雇い主である盲目の占い師、楓がフィレンツェに出稼ぎに
行っている間、楓の住む洋館を管理しながら、
アシスタント業を続ける雫石。
不倫の恋人であるサボテンの専門家、真一郎は妻と離婚。
雫石が山を下りたことで、少しずつ変化していく
それぞれの人生。

力強いけれど奇妙な山での生活を離れ、商店街がすばらしい
都会の町でひとり暮らしをする雫石だが、
ふとひとりの時間が訪れたことにより、とんでもなく
重症な、ホームシックがかの女を襲った。
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続けさまに2巻を借りるとゆー入れ込みよう。
今巻は、雫石を取り巻く状況というより、
かの女の内面の旅だった。
これだけ冷静に、自分の内面を見つめ、内省し、
客観的に評価することができたらすばらしいよなあ。
そのどろっどろの落ち込む時期を経て、
自分との関わりによって、周囲も、自分も、
水面の波紋のように揺れ、場合によっては変わって
いく、ということを、しみじみ実感するに至った雫石。

なんか、終わりの方とか涙ぐんでしまった。
これは一気に読んで正解の本。
電車乗ってるときとかに、細切れにしなくてよかった。
世界から醒めることなく没頭できたので。
少しずつ読むと、ちょっと説教くさいというか
内省的すぎるというか、多少宗教がかってるというか(笑、
とにかくちょっと読みにくいかも、という気もする。
さて、3巻も読まねば。
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「また来ます。」と私は、ついこの間まで知らなかった人たちに
挨拶する。その人たちは笑顔を見せる。そうやって、
私という波紋を、宇宙の記録の中にどんどん刻みつづけていく。
さらに漕ぎだしていけ、私よ。
新しい日常の中に、この小さな光をもって。(141.6-9)
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★★★
20070120借
小説 作家 よしもとばなな / comments(0) / trackbacks(0)
よしもとばなな『王国』その1
よしもとばなな『王国』その1 アンドロメダ・ハイツ
新潮社、2002、134p、1100-


薬草茶作りの名人だった祖母と、山深い豊かな場所に
育った主人公、雫石。
山のふもとで開発が始まり、山の植物が以前のように
力を持てなくなったとき、ふたりは山を下りた。
祖母は恋人のいるマルタ島に移住。
雫石は初めての都会暮らしをすることになった。

サボテンから取られた風変わりな名は、
かの女を大切な人と巡りあわせる。
目の見えない占い師のアシスタントとして生活し、
植物を使ったお茶や、軟膏を作るための修行を続ける。
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吉本は本作から「よしもと」に表記を変えたのだが、
なんか、そうなるのは当然のような気がしてきた。
最初改名の記事を見たとき、「だから?」と正直
思ったわけなのだが、こりゃすごい。
名前も変わるわ。

相変わらず変な人しか出てこない(笑)けど、
みんな、すごく自分に正直で、周りをよく観察している、
しっかりと生きている人たちばかりで感動する。
その1ということは続編があるのかと調べてみたら、
3まで出てることが判明。そら読まな。

★★★
20070117借
小説 作家 よしもとばなな / comments(0) / trackbacks(0)
吉本ばなな『ハードボイルド/ハードラック』
吉本ばなな『ハードボイルド/ハードラック』
ロッキング・オン、1999、125p、1000-

ハードボイルド
 1,祠  2.ホテル  3.夢  4.訪問者
 5.畳部屋  6.再び夢  7.朝の光
ハードラック
 1.十一月について  2.星  3.音楽


かつての恋人の命日に、かの女と永遠に別れた場所に似た
山道を歩く主人公。
その日は、何かおかしな日だった。おかしな夜だった。
とてもいやな感じのする黒い石を祀った祠を山中で発見し
これを避けて下山したあたりから、世界は妙な方向へ
向かっていく。「ハードボイルド」
何度も夢の中で主人公を責める、かつての恋人。
夜間にホテルのドアを叩く、バスローブの女。

そんな夜もいつか明ける。
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結婚退職を間近に控え、引き継ぎの作業を何日も
徹夜でおこなっていた姉が、脳出血で倒れた。
もはや、望みはなく、姉を生かしているのは姉自身ではなく
人工呼吸器だ。あとは脳死が判定されて、その呼吸器を
はずす日を迎えるのみ。「ハードラック」

姉とは全く性格は違うが、心からかの女を愛していた
主人公と、その家族。婚約者と、その兄の、
奇妙な「死」の待ち時間。
 「それは悲しみではない、ショックなんだよ。
  当時のショックが、今、大詰めを迎えて、戻ってきているんだ。
  時間がかかるし、慣れることはできないと思う。」(101.2-3)
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友人の訃報が2年遅れて伝わってきた。
その墓参をしようという日の朝に、これを読む偶然。

吉本の、こういうスーパーナチュラルな事象の描写は、
まったく気負ったところがなく、ごくごく自然に立ち現れる。
その筆力。
「世界はなんていい所なんだろうね!」(91.9)

★★★
20070113借
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吉本ばなな『不倫と南米』
吉本ばなな『不倫と南米』2000、幻冬舎、195p

電話
最後の日
小さな闇
プラタナス
ハチハニー
日時計
窓の外




南米、というかほとんどがアルゼンチン(特にブエノスアイレス)なんだけど(笑。

仕事で訪れたブエノスアイレス、予約のトラブルで初日のみ、
予定外のホテルに泊まることになった主人公のもとに、国際電話がかかってくる。
不倫の相手が事故死した、とその妻から。「電話」
生まれたときに占い師だった祖母から、死ぬ日を予言された主人公だが、
今日のその日、年上の夫とアルゼンチンにいる。「最後の日」
亡くなった母は、心を病んだ祖母との思い出ゆえ、小さな部屋に
入ることができなかった。父にもその話をせずに、母は死んだ。
お互いの傷の部分が、惹かれあう理由だったのだろう、と、
父とのブエノスアイレス旅行の中で主人公は考える。「小さな闇」
不倫の末に出会った、25歳年上の夫。サブマリーノをすすりながら回る、
アルゼンチン旅行。「プラタナス」
夫と離婚し、友人のいるブエノスアイレスに旅行に来た主人公。
軍事政権時代に子どもを亡くした母親たちの「白いスカーフの行進」を見ながら、
その生きていく力をかいま見る。母の味を思い出しながら。「ハチハニー」
ボーイフレンドと入ったいきつけのサンドイッチ屋。
そこにブエノスアイレス在住の友人から携帯に電話がかかってくる。流産したと。
中学時代、飽かず同じ夢を見た友人。さまざまにうつろう互いの人生。
「日時計」
互いに配偶者のある身で出会ったふたり。でも心のひだに寄り添うような、
穏やかな時間。「窓の外」


原マスミの絵も秀逸。死の気配。でも生に向かう姿勢。圧倒的な祝福。★★★

「すばらしい夜明けだった。うすい青とピンクが雲に反射して、
この世はなにかきれいなお祝いの呪文につつまれていて、
なにも悪いことなどないように思えた。神様が色とりどりの透明なほうきで、
昨日の夜のうちにおこった汚れをさっとはいた後のように思えた。」
                            (「窓の外」)
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