活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
野中ともそ『パンの鳴る海、緋の舞う空』
野中ともそ『パンの鳴る海、緋の舞う空』
集英社、1999、214p、1400-


NYでメトロの車掌をするグレゴリーと、
日本での作詞家の仕事をやめてNYに移住したマヤは
伝言ダイヤルで出会った。
お互い、少なくない異性遍歴を重ね、それでもなお
どこかに焦燥感と孤独を抱え、日々を送る。
そんなふたりが会おうと約束したのは、
カーニバルを直前にしたトリニダッド・トバゴ。
マヤはNYで偶然聞いたスティール・ドラム=パンの
リズムに魅せられ、グレゴリーはカリブの太陽と人々、
カリビアン・ミュージックとに心奪われ、
それぞれにここにたどり着いた。

うーん、あらすじ書いちゃうと身もふたもないな(笑。
丁寧な情景描写と、繊細な感情のトレースができてる
とてもよい小説でした。あー、最後までどきどきしたよ。
この人の他の本も読んでみよう。。

20080531借
★★★
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長野まゆみ『三日月少年の秘密』
長野まゆみ『三日月少年の秘密』河出書房新社、2003、
141p、1000-

高塔(タワァ)の秘密篇
鞄の秘密篇


球形関節を持つ少年型人形、「三日月少年」をめぐる
なんやかや。
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うん、長野の刊行されたものには
全部目を通そうと思ってるからな。
読んだ。以上。
絶対、最近の長野がいいよなあ。

20071027借
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長野まゆみ『となりの姉妹』
長野まゆみ『となりの姉妹』講談社、2007、
219p、1500-


となりの姉妹は、ふたりでとなりに住んでいる。
服制作のアトリエを持つ「わたし」は、この年上の姉妹に
何かとかわかられて育った。
ふたりとも美人だ。姉の方の逸子は兄と同級生である。
となりは今度、2階を改装して期限つきの下宿にするらしい。
その情報を持ってきたのは、出奔中の兄だ。
妻子を置いてふらふらしている8歳上の兄は、
町内の菊屋のおかみさんの葬儀のために帰省したのだという。
兄の帰省、おかみさんの死、となりの改装が、
思いがけなく広い範囲で、さまざまな事情を動かし始める。
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おお、長野の本のタイトルが女性だよ!
とかいうことに感動してしまった(笑。
語り手は若い女性。えーと24歳かな。
『箪笥のなか』よりさらに若い。いいねえ。
雰囲気(ものすごく気のいい近所の人とか商店街の人)も
ちょっと『箪笥のなか』っぽい。
これ、きっと過去作品とリンクしてるんだよね。
でもこのごろ断片的にしか長野を読んでいないので、いまいち
何と何がどうつながるかぱっとわかんないんだけど。
今度まとめてみよう。
おもしろかった。ちゃんと長野だったし。
思わせぶりでえっちいし。

20071003借
★★★★
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長野まゆみ『メルカトル』
長野まゆみ『メルカトル』大和書房、2007、189p、1300-

地図収集館で働く17歳のリュスは生まれて間もなく、
朽ちた船首女神像とともに運河を漂っているところを
酔っぱらいの船乗りに拾われ、救済院で育った。
その生い立ちから、なにごとにも控えめで我慢強く、我を通さずあきらめが早い。
人のおさがりを着ることが当然、食事も質素でごく少量を。

大学へ行く学費を稼ぐために働く地図収集館には、さまざまな客が来る。
中でも特に問題児である美しい少年が、ある日リュス宛の封筒を持ってきた。
中には1枚の地図。
この地図上のどの家でも、好きなところに住まわせてあげようという、
「地図制作者 メルカトル」からの手紙とともに。
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地図を見るだけで心の旅に旅立てる、
「地図はぁはぁ」な人にはたまらないタイトル(笑。
相変わらず突飛な人物が主人公に絡んでくる。
主人公は自分だけが自覚のないまま、問題の渦中に引き込まれる例のタイプ。
他人から見ると美徳を多く持つものの、それらに自分では頓着しないという
長野的にはありがちな主人公。
でもその中でも群を抜いて自己評価が低いリュスの、
気がついたらハッピーエンドな物語。
プロローグの意味に、最後になって気づくというのもよい趣向。

長野、確実にいい作家になってってるよなあ。
それを同時代で読めるのはなかなかの幸せだ。

★★★と半
2007.6.16借
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梨木香歩『沼地のある森を抜けて』
梨木香歩『沼地のある森を抜けて』新潮社、2005、406p、1800-

両親が揃って早死にしたあと、交流が途絶えてしまった一番下の叔母の、
ひっそりとした葬儀が終わった日、唯一の血縁となってしまった2番目の
叔母が、おごそかに言った。
「私」がカホウのぬか床を引き受けなければならない、と。
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おおう。
まさかこんな話だとは思わないじゃないか(笑。
日々ぬか床をかきまわす。どんなことがあった日にも。
それは『からくりからくさ』で言及されたような、
日常をつむぐ機織りと、同義であるように思う。
宿り、育まれ、紡がれ、続く、命。の日々。
そしてぬか床の正体。

最終盤のタモツくんのくだりがえっちいのなんの(笑。
生殖ってやらしいな。
梨木がこんなにセキララに生殖行為を描くとは思わなんだ(笑。
リンパ節って、おい。

でも、ひねくれて考えてしまう。
梨木くらいの世代の女性作家が、わりとあるポイントから、
妊娠すること、子どもを育てること、を題材に盛り込むように
なってる気がする。
ある程度の年齢になると、どうしても考えずにはいられないことなのかな。
生物である以上、そこから離れては価値がない?
でも確かに、それが負い目になってしまう社会ではあるし、その中で
生きる上では、いやがおうにも直面せざるを得ないことなのかもしれないけど。
自分がこの星に生きる生物であるということを、血肉を分けた子孫を残すこと
以外に確信させる。そのような話にはならないものなのかなあ。

★★★★
2007.5借
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長野まゆみ『箪笥のなか』
長野まゆみ『箪笥のなか』講談社、2005、231p、1300-

箪笥のなか/鳩のパン/真珠採り/岸辺/函屋/
蛇の眼/琥珀/雪鳥/梔子/貝雛/花零(ふ)る


年代物の一軒家に住む、画家の「わたし」。
親戚が古い箪笥を持てあましていると聞き、
2階の座敷にうまく合いそうだったので、
弟の運転で取りに行く。
幼いころから普通には聞こえないものまで聞き、
普通には見えないものまで見ては両親を困らせていた
弟も27歳、まもなく父になる。

「紅い箪笥」は案の定、しっくりと部屋に馴染んだ。
抽斗が3段、小抽斗が2杯。留め金具は蝶のかたちだが、
小抽斗の片方だけは蝙蝠のかたちだ。
この箪笥がやってきてから、「わたし」の家には、
他のいろいろなものもやってくるようになった。
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蛇口に「カラン」とルビを振り、ソーダを曹達水と表記する、
透き徹るような肌を持つ少年たちが、ハイソックスで
石畳の道を駆け抜ける、そういう世界でデビューした
長野なわけだが、ここ数年、ちょっと古くさい、
和の趣の世界を描くことが多い。
それは、『夜啼く鳥は〜』や『魚たちの離宮』みたいな
明らかに遠い世界の和風ではなく、生活の色が見えるものだ。
こうした、和風の文物や風習というのは、
長野にとって新たな「異世界」の表現なのかもしれない。
わたしは嫌いじゃないな。この本買うかも。
もちろん、『天体議会』も『夜間飛行』も大好きだけど。

この「わたし」が住む古い家って、梨木香歩の『家守綺譚』や
『村田エフェンディ滞土録』の、あの家のイメージと
ちょっとかぶる気がする。
梨木といえば『沼地のある森を抜けて』未読だな。
読みたいな。
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箪笥、の「たん」の字は口ふたつの方なんだけど、
化けちゃうので便宜的にこちらで。

★★★★
20070119借
・・・
20080927文庫購入。
講談社、20080921、253p、514−(古本で300−)
解説:米光一成

漢字表記に変更あり。抽斗→ひきだし、天鵞絨→ビロード、
曇り天→曇り空、のように。
ぬう、どっちも悪くない。
でも単行本もやっぱりほしくなっちゃうー(涙。
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野中柊『きみの歌が聞きたい』
野中柊『きみの歌が聞きたい』角川書店、2006、279p、1400-

月の石
アクアマリン
赤瑪瑙
クレソプレーズ
真珠


幼稚園のころからの親友、絵梨と美和は、ふたりで
ビジューのブランド「クレソプレーズ」を運営している。
絵梨が主にデザインし、アクセサリを作り、
美和がそれをショップに置きにいったり、経理を担当。
揺るぎなく、閉じられた世界。
「月の石」「真珠」は美和が、
「赤瑪瑙」は絵梨が、
「アクアマリン」「クレソプレーズ」は、絵梨の家に
居候する少年、ミチルがそれぞれ語り手。

淡々と描かれる日常、喜びも悲しみも、そっと包み込むような。
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章ごとに語り手が変わる一人称は、ともすればやや状況説明に
流れてしまうきらいがある。
美和と絵梨と、両方に語らせたのはちょっとどうだろう。
絵梨の死後、ミチルが自力で回復していく過程は素晴らしいが、
これ、ほんとに絵梨を死なす必要があったのか?
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野中、いっぱい読んでるわりに、どうしていつも辛辣な感想を
述べてしまうんだろ(笑。本当は大好きなのかな。
今回はちょっと急ぎ足で読んでしまったので、もう少ししてから
再読してみようと思う。おもしろかった。

★★★
20070117借
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中村彰彦『落花は枝に還らずとも』
中村彰彦『落花は枝に還らずとも 会津藩士・秋月悌二郎』
中央公論新社、2004、上巻:342p、下巻:336p、1700-


幕末の、激動する会津藩を生きた、ひとりの男性の生涯。
何より好感を持てるのが、この人が30過ぎまで学問してたこと(笑。
藩校の特に優秀な者を江戸の昌平坂学問所(湯島聖堂)に
留学させる、ということはけっこうどこの藩でもやってたと思うけど、
この秋月は学問というものを、自分の拠って立つものとして
しっかり身の裡に叩き込んでる。学徒としてそうありたいものです。

その姿勢が、文官でありながら、京都所司代を命じられた会津藩主の
供として京都詰めを命じられたり、薩会同盟締結の立役者とならしめたり、
逆にそれを妬まれて蝦夷地に左遷されたり、という境遇を生む。
ただ、それを悲観することなく、自分の立場を、会津藩の中に位置づけ、
地味にその仕事を果たしていくのは、素晴らしいことだと思う。

ラフカディオ・ハーンに「神のような人」と称されたという晩年の
あり方は、少しうざいけど(笑。

ただ、これ、小説としてはおもしろいんだろうか。
技術的にも、そんなに読みやすい文章じゃない。
主人公の人柄とか、幕末の政治史としての側面があるから
おもしろく読めてるだけの気がする。
題材勝ちというか。
小説としておもしろいのか、題材がいいからおもしろいのか、
歴史小説の評価につきまとうジレンマであるような気もするけど、
ちょっとね。

★★
20061229借
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野中柊『占い師の娘』
野中柊『占い師の娘』角川書店、1998、183p、1300-

高校時代に日本を出奔し、アメリカで占い師をしながら
一人娘の「私」を育てた母。
遠方から飛行機に乗って会いに来る顧客もいるくらいの
盛況ぶりだったんだけど、母は買い物の帰りに
車にはねられて死んだ。
でも、死んだはずの母が、毎晩現れるのだ。幽霊として。

風変わりな親を持った子が、反発しながらこれを認め、
受け入れ、理解していく、成長の物語、かな。
アメリカンな雑貨や食べ物や、そういった小物の
ちらばせ方なんかは、やっぱかわいいしおもしろいなあと思う。
でも、江國と吉本がいれば、野中いらなくね?
という気がしてしまうのはなぜだろう。
特にこの作品のような、スーパーナチュラルなネタは
吉本の方が…みたいな感じもしなくもなく。
高校のころ、『空から猫が降ってくる』読んだときは、
すっげえおもしろい! と思ったんだったけどなあ。

★★
20061229借
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長野まゆみ『あめふらし』
長野まゆみ『あめふらし』文藝春秋、2006、217p

空蝉
蛻のから
こうもり
やどかり
うろこ
わたつみ
かげろう
雨宿


ウヅマキ商會なるあやしげな会社でバイトをすることになった
大学生、市村岬(こう)。
人をくった態度の社長・橘河、あやしい美貌の妻・橘河夫人、
市村がこの世ならぬところから連れ帰った少年・鳩彦(やすひこ)、
仕事の成り行きで市村が娶った謎の女・さゆり、
美貌を冴えない眼鏡で隠す、番頭役の仲村。

なんでも屋、ウヅマキ商會に飛び込む仕事はどこか不思議なものばかり。
どうやらそれは、市村の「うろこ」を狙ったものらしい。

でも、わたしは市村絡みの話より、仲村らぶのようです。

『よろづ春夏冬中』の続編?
最近の長野の、かぎかっこをなくして、
台詞を地の文と一緒に書いちゃう手法、とてもいいと思う。
長野の文章によくあうよな。
20060817借。
★★★
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