活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
高室弓生『ニタイとキナナ』
高室弓生『ニタイとキナナ』青林工藝舎、2006.11、327p、1600-

縄文中期、ヒタカミの国、デランヌの村(現在の岩手県遠野市近辺)に生きた、ニタイ(罠漁組の長)とキナナ(海辺のキリキリの村から嫁に来た)の夫婦の生活を中心にした、ちょーー淡々とした日々の物語。

ストーリーというほどのことはない。強いていうなら、嫁に来てすぐに流産してしまったキナナに、そのこの魂がもう一度帰ってきて、まあつまりもっかい妊娠して出産して、子どもが童衆宿入りするまでの時間なのだが、例えば部族抗争とか、他の村との水権争いとか、弥生人が攻めて来て、とか、そういうスペクタクルなことはない。
しかし、このあざやかな風景!
緻密な背景に支えられて、作中の縄文人たちは毎日働いて感謝して旦那に文句いって、月夜に酒盛りをするのだ。

作者は岩手の人で、舞台も岩手県内陸部。
出てくる固有名詞は、アイヌ語と東北の方言のミックスのようなもの。
植物から採取した繊維で機を織り、衣類にする。
冬場は水鳥の羽毛を中に入れた服(ダウンジャケットだし)で防寒。
多様な保存食、広い行動範囲、柔軟な社会組織。
すっごいきちんとした考証に支えられているように見えて実は作者の経験と思考(嗜好)と勘と想像の産物。

連載はコミックトムに、98年から2000年。
ちなみに三内丸山遺跡の事前調査は92年開始、例の6本柱の跡が発掘されたのは94年、2000年に国の史跡指定、2003年に出土物の一部が国の重文指定を受けた。
つまり、作者がこれを描いたとき、「縄文時代」というと、狩猟採集を中心とした不安定な社会基盤の中で、獲物の毛皮をまとい、その日暮らしをしていた時代、という認識が、考古学者の間でも一般的だった時期なのだ。
この作品に先立つ連載(『縄文物語』)の際から、学者やマニアからのクレームががんがんやってきてたらしいが、いざ三内丸山という大規模遺跡が出てきてみたら、作者が想像で描いていた世界を肯定する結果になったのだから笑える。それまで何やってたんだジョウモニスト(笑)。まぁ日本の考古学にある種の問題があることは間違いないけど、こんなマイナな連載にいちゃもんつけて何やってんだ。
確かに本人も書いているように、「マンガ家は学者じゃないからソーゾー力だけで物が書ける〜♪」(「あとがき」327)というのは強みだけどね。

なんか興奮して何書いてるかわかんなくなってきたな。
絵柄は古っぽくて、特に目とか鼻の描き方に改良の余地はあると思うけど、なんか、そういうことじゃないんだな。
まだうまく説明できないけど、わたしは「マンガ」という媒体の可能性というか、不可侵性みたいなものまで考えてしまったよ。

2006年発行で、まだ初版です!
みんな、本屋に注文して買うんだ!(笑

★★★★
20090609購入



ニタイとキナナ
高室 弓生

JUGEMテーマ:漫画/アニメ


コミック タ行 / comments(0) / trackbacks(1)
Comment








Trackback
この記事のトラックバックURL: http://blog.coo.sunnyday.jp/trackback/985411
ニタイとキナナ
ロドリゲスインテリーン / 2009/11/23 12:55 PM