活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
木尾士目『ぢごぷり』第1巻
木尾士目『ぢごぷり The Princess of The Hell』第1巻
2009.5、講談社、226p、533-


3月のある晴れた日、双子の姉はぶじに産院を退院した。
ほんの1年前は、同じ学校通っていたのに、
思えば遠くに来たもんだ。
わたし、日野かなめ、姉は沖浦あゆみ、ともに18歳。
これからふたりで、夢子ちゃんを育てていく。

育児はたいへんだと聞くけれど、でもわたしも育児書はいろいろ
たくさん読んだし、お姉ちゃんは、ちょっと完璧主義なとこもあるけど
「運動以外は何でもできて」「誰にも優しく」「丁寧に穏やかに」
「でも自分には厳しい」「私の自慢のお姉ちゃん」だから、

ふたりでも、きっと大丈夫。
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木尾士目真骨頂。
『げんしけん』後期よりも、さらにまるまるとした絵柄で、
で、このディープな話かい、というギャップが、
なんだか『ディエンビエンフー』みたいな(笑。

アンバランスなほどに大きな瞳、細い描線で丹念に描かれる
簡略化ばりばりのアニメ絵の母&叔母に対して、
非情なほどリアリズムに徹したしわくちゃな顔で描かれる新生児。

「♪この赤ちゃんはー、すごいいい子ちゃんなんだー」
退院当日、入院中に作った歌を歌いながら授乳をする姉。
できれば完全母乳を目指したいし、
おしりふきも、市販のものではなく脱脂綿で自作。
布おむつにもしたいけど、さすがに紙かな。

しかし、繰り返す夜泣き、合わない授乳タイミング、
おっぱいしか飲んでいないのに大量の排便、
そのたびにおむつから漏れて、シーツから全部取り替え。
いつまで続くのか、この疲労。

会陰切開→縫合の傷はいつまでも痛いし、
誰にもいえないけど尿漏れも続く。
時間の感覚は薄れてゆき、常にぼやっとする頭。

友だちに子ども生んだ人なんかいないし、相談できる人もいない。
妹は親身になって家事をしてくれるし、赤ん坊の面倒もみてくれる。
でもそのたびに自分が、
そんなこともひとりではできない人間なのだとと思えてくる。
拭いがたい孤独感。

育児書は、本ごとに書いてあることが違うし、
自分が知りたいことが書いてある本がそもそもない。
こんなにたいへんなのはわたしだけなの?
襲いくる不安。

自分の母乳だけで育っているのに、こんなに頑張っているのに
泣いているところを抱き上げても身を捩って逃れようとする
自分の子ども。
もしかしてハズレ…?
こんなことを思うわたしは母親失格…?

と、日に日にうつになっていく姉の独白はあまりにリアルで、
それにけなげに尽くしていく妹とのかけ合い、衝突の描写は
まさしく木尾士目。
『げんしけん』では登場人物が多すぎて、
個々人の内面描写は特定のキャラでしか描かれなかったし、
どうしてもちょっと浅いものになってたけど、
これは何しろ登場人物が2人と2分の1しかいない(笑。
どうやら現在ここにいることができない夢子の父らしき人物の、
拭いがたい存在感、不在の存在感が底流にあるようではあるけれど。

さあ、come back『五年生』!
好きなだけがっつりやってくれ!(笑
たのしみだ!
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と、作品論とは別件で、育児なんて絶対に
ひとりでやるもんじゃないな、とも思う。
ここでは双子の妹という、限りなく自分に近い人物が、
ここまで親身になって近くにいるのに、ここまで落ち込める。
もしこれをひとりでやって、家事と両立するなんて無理。
逃げ場のないマンションの部屋で、ひとりでそんなことしてたら
そりゃ自分か子どもに当たるしかなくなっていくよね。
追いつめられていくよね。
ネグレクトも含めた虐待って、社会も含めた環境の産物だなあ、
と実感してしまう。
願わくば、この姉妹に、他者からの手伝いの手が伸べられますよう。
そして「自分の子どもをかわいいと思えない」ことは
別におかしいことではなく、
母性というものは神話に過ぎず、
別にそのままでじゅうぶんであることを、
あゆみに教えてくれる人がいますように。

★★★★
2009.5.28購入

ぢごぷり 1 (アフタヌーンKC)
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木尾 士目
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