活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
若合春侑『蜉蝣』
若合春侑『蜉蝣』角川書店、2003、201p、1700-

二・二六事件前夜、東京。
次第に軍国主義の色を増していくとはいえ、
それでもまだまだ、芸術を楽しむゆとりはある。
主人公、帰依は上野のカフェの女給である。
腕のいい大工だった父がけがをし、家計が傾いたため
若いうちから奉公に出、奉公先の主人に手込めにされて
妊娠、堕胎というつらい経験を負ったのち、
美学生たちが集まるカフェに勤め始めた。
常連の学生たちに頼み込まれ、週に1度、上野の美学校で
ヌードモデルをしている。

かの女をデッサンする学生のひとり、髪も肌も美しい
青年、榊と恋に落ちるが、夏休みの終わり、
かれは誰にも告げず行方をくらませた。
失意の中、榊を思い切ろうとする帰依は、以前海辺の
旅館で出会った紳士に乞われ、その妻になる。
その紳士は、残酷絵の絵師、佐々愁雨だった。

日々愁雨に苛まれ、その姿を描かれる帰依。
傷だらけになるかの女を、いつも優しく介抱する
愁雨の弟子、佐吉。
実家に届いていた榊からの手紙。
なんと榊はパリ万博に作品を出展するために
渡欧していたのだ。
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タイトルのルビが「かげろふ」だったので
そうなのかな、とは思ったけど、全編旧仮名遣い。
おおおお、これは挑戦だ、挑戦だな、と思ったけど
意外にもあっさり順応。

ここしばらく旧字旧仮名に触れてなかったので、
もっと難航するかと思ったのだけれど。
ちなみにこの作者、「わかい・すう」と読むらしい。
あ、「腦病院へまゐります。」の人なのか。
初めて読んだ。

それにして、男運のない主人公だなあ!
たまさか憤り、それでもしかたないと諦め、
恋をしては自分を穢れた人間だと卑下する。
自己評価が低いので、乞われる(恋われる)と
うれしくて、自分も相手を愛してしまう。

与えられた状況以外の場所で生きていきたいと
思いつつ、結局は自分の知っている範囲でしか
自由でいられないということも自覚していた。
愛する人と死ねてよかったんだろうな、とも思う
けど、もう少しなんかできなかったの、とも思う。
帰依の被虐体質が状況悪くしてるのは明らかだし、
なんか、もっと、こう、さ…

しかし残酷絵の絵師が、まんま嗜虐趣味だというのも
ちょっとひねりがなくてつまらんね。
実際モデルに血を流させないと描けないのだとしたら、
それはそれで絵師の技倆を疑うし。
榊を渡欧させたパトロンも実は愁雨だった、っていう
全ての黒幕が愁雨というのも、ちょっと役者が足りない感じ。

でもおもしろかっった。
気力があるとき、他の作品も読んでみようと思う。

★★★
20070129借
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