活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
村上春樹『東京奇譚集』
村上春樹『東京奇譚集』新潮社、2005、210ページ、1400円

偶然の恋人
ハナレイ・ベイ
どこであれそれが見つかりそうな場所で
日々移動する腎臓のかたちをした石
品川猿



長く友人に貸していたのが返ってきたので記念読書。
しっとりまったり系連作短編集。

自身がゲイであることが発覚したときから仲違いをしている姉に、
ふとした偶然から連絡を取った。不思議な偶然が重なり、
姉との関係を修復する。まるで、ピアノの調律をするように。
「偶然の旅人」

愛しているけれど、人間としては好きになれない息子が
サーフィン中に鮫に襲われて死んだ。その小さなビーチ
「ハナレイ・ベイ」に主人公は毎年滞在する。
打ち寄せる波、振り返る自分の半生、しかし息子の幽霊は、
かの女にだけ、見ることができない。

「どこであれそれが見つかりそうな場所で」、とある
「ドア」を探し続ける探偵。しかしなかなか見つけることは難しそうだ。
今回の行方不明者も、ぶじに帰ってきてしまったことだし。
20日分の記憶と、結婚生活で増えた10kgの体重を失って。

『神の子どもたちは皆踊る』の「蜂蜜パイ」の主人公だった淳平くんが
またしても主人公。「蜂蜜パイ」の空白期間のとある出会い。
きっとこれ、この人が主人公で長編が書かれるんじゃないのか。
パーティで出会った女性に、今書いている短編の構想を話して
聞かせる。それは「日々移動する腎臓のかたちをした石」の話だった。
話ができるとともに、女性は淳平の前から姿を消す。
失ってから気づくのだ、かの女が淳平にとって
「本当に意味を持つ女性」であったことを。
そして「大事なのは誰か一人をそっくり受容しようという気持ち」で
あることを知る。そんで「蜂蜜パイ」に続くわけだな。

自分の名前を、突然忘れてしまう。
忘れてしまうのは自分の名前だけだ。
不安を覚えた主人公が通うカウンセリング。
カウンセラーはあるとき、自信たっぷりにいった、
かの女の名前を盗んだのは「品川猿」である、と。
主人公は、自らの名前を追う中で、今まで気づかなかったこと、
気づかぬふりをしていたことと向きあうことになる。
『神の子どもたちは皆踊る』の「かえるくん東京を救う」が好きな人は
すごく好きな話だと思う。

ベストは「ハナレイ・ベイ」、次点が「腎臓石」。
全体に、小品というか、インパクト的にもおだやかでした。
★★★
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