活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
これからの生き方は自分で考えよう:マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』
マイケル・サンデル、鬼澤忍訳『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』
(JUSTICE What's the Right Thing to Do? 2009.)
2010.5初版、2010.8第43刷、380p、2300-
第1章 正しいことをする
幸福、自由、美徳
パープルハート勲章にふさわしい戦傷とは?
企業救済への怒り
正義への三つのアプローチ
暴走する路面電車
アフガニスタンのヤギ飼い
道徳のジレンマ

第2章 最大幸福原理―功利主義
ジェレミー・ベンサムの功利主義
反論その1:個人の権利
反論その2:価値の共通通貨
ジョン・スチュアート・ミル

第3章 私は私のものか?―リバタリアニズム(自由至上主義)
最小国家 
自由市場の哲学
マイケル・ジョーダンの金
私は私のものか?

第4章 雇われ助っ人―市場と倫理
どちらが正しいのか―徴兵と傭兵
志願兵制の擁護論
金を貰っての妊婦
代理出産契約と正義
妊娠を外部委託(アウトソーシング)する

第5章 重要なのは動機―イマヌエル・カント
権利に関するカントの見方
最大幸福の問題点
自由とは何か
自由とは何か
人格と物
道徳的か否かを知りたければ動機を見よ
道徳の最高原理とはなにか
定言命法 対 仮言命法
道徳と自由
カントへの疑問
セックスと嘘と政治
平等をめぐる議論―ジョン・ロールズ
契約の道徳的限界
同意だけでは不十分な場合―ベースボールカードと水漏れするトイレ
同意が必須ではない場合―ヒュームの家とスクイジー・マン
利益か同意か? 自動車修理工サムの場合
完璧な契約を想像する
正義の二つの原理
道徳的恣意性の議論
平等主義の悪夢
道徳的功績を否定する
人生は不公平か

第7章 アファーマティブ・アクションをめぐる議論
テストの差を補正する
過去の過ちを補償する
多様性を促進する
人種優遇措置は権利を侵害するか
人種隔離と反ユダヤ的定員制限
白人のためのアファーマティブ・アクション
正義を道徳的功績から切り離すことは可能か?
大学の入学許可を競売にかけては?

第8章 誰が何に値するか? アリストテレス
正義、目的因(テロス)、名誉
目的論的思考:テニスコートとクマのプーさん
大学の目的(テロス)は何か?
政治の目的は何か?
政治に参加しなくても善い人になれるか
習うより慣れろ
政治と善良な生活
ケイシー・マーティンのゴルフカート

第9章 たがいに負うものは何か?―忠誠のジレンマ
謝罪と補償
先祖の罪を償うべきか
道徳的個人主義
行政府は道徳的に中立であるべきか
正義と自由
コミュニティの要求
物語る存在
同意を超越した責務
連帯と帰属
連帯は同族を優遇する偏見か?
忠誠は普遍的道徳原理に勝るか?
正義と善良な生活

第10章 正義と共通善
中立への切望
妊娠中絶と幹細胞をめぐる論争
同性婚
正義と善良な生活
共通善に基づく政治

謝辞
原注



よくできた内容だな、というのが第一印象。大学時代に、教養課程を叩き込まれた層には、なつかしく訴求するかもしれない。あのとき言われていたのはこういうことだったのか、と思わしめる部分はある。

ただ、ここで問われているのは、われわれが何を以てそれを「正義」と定義するかという問いであって、何が正義かという問いではない、ということは明確にされるべきではないのか。
戦略的にそれが明示されないのはフェアでないのではないのか。
内容としては西洋哲学の講義であり、それこそソクラテスからベンサムまで、それをかれら自身の著作から読むためのきっかけとして、これらの問題を掲げているのだろうことは理解できる。
それでもなお、本書に首肯しかねるのはなぜなのだろう。
大学という場所に学究への誇りと期待を持って入学したかれらを待っているこの問い。
それ自体は極めて学術的で、そして机上の議論である、が、しかし現実への そうだ、それが「justice」を大前提としているところだ。
すなわち「justice」とは何か、ということ。
justiceが時代や場所によって容易に変わり得るという話に進んでいくのだろう、
しかし、justiceという考え方それ自体が存在し得ない世界だってある、ということまで、この本は射程に入れているのだろうか?

衝撃的な書き出し以降は、ベンサムの功利主義など、近代西洋哲学の基礎となる先人たちの学説が説明されていく。
「正義」を切り口として。
それは、おそらく、とてもおもしろいころだろう。
しかしおもう。
かれらは、「正義」のみをかれら自身の哲学の対象としてきたのだろうか?
生きていくのであれば考えざるを得ない「正義」ではあるが、しかし、それのみで生活は成り立たず、哲学は論じきれず、人生は乗りきれない。
本書ではそのことには最終的に触れられない。
ここで西洋哲学を理解するための切り口として「正義」を持ち出しているというアメリカ的思考に、ややうんざりするのだ。
いやこれはアメリカという国の中の学府でおこなわえる講義なのだから、それでよいのだと考えることもできるだろう。
が、これを他国語で読む身とするならば、アメリカという国を超えた視点を、些少でよいから示してほしいと思ってしまう。

しかし、それらの点をすべて保留にしてでも、知的ゲームとしての本書には高い価値がある
ただ、それは本書に書かれていることを鵜呑みにして納得することではなく、言及されている。原著にまで手を伸ばし、自分の頭で思考して理解することを最終目的とする知的ゲームだ。
本書に限らず、どの本でもそうなのだろうけれど。
読むだけではだめなのだ。考えるのも決めるのも、最終的には自分なのだ。
読むだけで満足するタイプの人には、ただ刺激的な文字を追うだけの本に終わるだろう。

ついでいいうと、近代哲学を学ぶなら、最初から原著に触らせるタイプの講義のほうが、自力で考える、という場所には、早くたどり着けると思う。それらの膨大な知識の中から、「正義」に限らず、興味のある切り口で、いくつもの哲学者の考えを切り取っていけばよいのだから。

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