活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
恩田陸『蒲公英草紙』
恩田陸『蒲公英草紙 常野物語』集英社、2005.6、252p、1400-

一、窓辺の記憶
二、お屋敷の人々
三、赤い凧
四、蔵の中から
五、『天聴会』の夜
六、夏の約束
七、運命


阿武隈川沿いに広がる平野に位置する農村、槇村の集落は、槇村家を中心にした、こじんまりとしているけれども、豊かな村。医師である父に頼まれて、峰子が槇村家を訪れたのは、ある春の午後。峰子のひとつ上の槇村家の末っ子、聡子の話し相手としてだった。聡子は生まれつき心臓に欠陥があり、寝たり起きたりを繰り返して、あまり外出したこともなく、同年代の友人を求めているから、と峰子に白羽の矢が立ったのである。
寝たきりの、辛気くさいひ弱な子を連想していた峰子だが、実際の聡子は、おかっぱの、輝くような少女だった。いくつもの季節を、ふたりはともに過ごしていくことになる。
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恩田陸『Q&A』
恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004.6.10初版、2004.6.25第2刷、310p、1700-

東京郊外のとあるショッピングセンターでおこった謎の事故/事件。60人を超える死者を出す大惨事であったにも関わらず、原因も何もかも不明のまま、そのショッピングセンターは閉鎖され、更地にしたのち、別の店舗や再建された。 当初火事だと報道され、その後毒ガス説、生物兵器説がつぎつぎと飛び出したが、ショッピングセンターの中からそれらの証拠は何一つ見つからず、死者の死因の多くは圧死。また、吹き抜けのエスカレーターからの転落死。不審な人物が複数目撃されてはいたが、複数階でほぼ同時に起こった恐慌の原因にはなり得ない。
いったい、その日その場所で何が起こったのか。QuestionとAnswerでつないでゆく。
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恩田陸『きのうの世界』
 恩田陸『きのうの世界 ANOTHER YESTERDAY』講談社、2008.9、478p、1700-

第1章 捨てられた地図の事件
第2章 日没から夜明けまでの事件
第3章 溺れかけた猫の事件
第4章 駅の掲示板の事件
第5章 紫陽花とハンカチの事件
第6章 川沿いに建つ洋館の事件
第7章 焚き火の神様の事件
第8章 点と線の事件
 若月慶吾の幕間
第9章 同じ顔をした男の事件
第10章 散歩する犬たちの事件
 図書館での幕間
 市川吾郎の幕間
第11章 風が吹くと桶屋が儲かる事件
第12章 井戸と鋏の事件
第13章 帽子と笹舟の事件
第14章 不吉な電話の事件
第15章 彼女の事件
第16章 彼らの事件
第17章 彼らの事件の続き
第18章 私の事件
第19章 水無月橋の殺人事件


上司の送別会の席からふいに失踪した男性が1年後、東京から遠く離れたM町で、死体となって発見された。腹部を鋭いもので刺されたことによる失血死。発見したのはもと高校教師。発見されたのはM町とK市の飛び地である丘とをつなぐ水無月橋の上。凶器は持ち去られたようで発見されず、もちろん犯人も見つかっていない。
M町は、古い3本の黒い塔が建つ、傾斜の多い街。古い水路が張り巡らされた、用水に恵まれたごく小さな地方の町だ。どんな理由で男性がこの町に住み着き、人々にこの町の成り立ちを訪ね歩いていたのか、もはやわからない。それでもこの町には、何かが隠されている気配がある。
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恩田陸『黄昏の百合の骨』
 恩田陸『黄昏の百合の骨』講談社、2004.3、310p、1700-

ある独白
犠蓮♂欧髪
蕎蓮_屬藩
珪蓮】と蛇
絃蓮ー錣板
江蓮ヽイ罰


おそらく長崎で高校生をしている理瀬。目立たないよう、目立たないよう、息を潜めて高校生活を送ってはいるが、長い黒髪の、端正な顔立ちの理瀬は、同じ校内でも近くの男子高校生からも、ついつい注目を集めてしまう。仲よくなった朋子も、人目を惹く美少女だ。
しかも住んでいるのは、小高い丘の上の亡き祖母の屋敷。ここは近所でも有名な化け物屋敷だし、同居しているのは、それまで会ったこともない義理のおば姉妹。周りが何かとうわさしているのは知っていたけれど、さしあたりそこまで気を遣っている暇はない。祖母亡き後の屋敷をどうするか、おばふたりをどう扱うかという問題もあるが、生前祖母に存在を示唆されていた「ジュピター」についての手がかりを探さねばならないのだ。
祖母によれば「ジュピター」は、一族の手で葬り去らなければならないものらしい。おばの詮索をかわしつつ、しかし何の手がかりも得られずにいるうちに、祖母の法要のために、ふたりの従兄弟が家を訪れた。稔と亘。会うのは久しぶりだ。そして、坂の多いこの街に、秋の嵐が訪れる。
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恩田陸『上と外』
恩田陸『上と外 upside inside-out』幻冬舎、2003.2、510p、1900-

初出:『上と外』文庫全6巻(幻冬舎、2000.8-2001.1)

1 素晴らしき休日
2 緑の底
3 神々と死者の迷宮
4 楔が抜ける時
5 みんなの国


インディオのことばで「木々の茂る所」という意味の国名を持つG国に、父を訪ねて練は降り立った。考古学者の父は、この国の熱帯雨林に埋もれた遺跡の発掘作業をしている。
海外の父を夏休みにみんなで訪ねるのは夏の恒例だ。義母の千鶴子と異母妹の千華子。父と義母は離婚しているが、練は4人が一緒にいるときに「家族」を感じる。と同時に演じている自分をも感じてしまうのだが。
しかし久々に会った千鶴子と千華子の雰囲気がおかしい。何かを隠している。千華子もすっかり大人びて美人の片鱗を見せ始めるし、G国のラジオから時折流れてくるフレーズもおかしい。それは「さかずき満ちる時、黄金の太陽が復活する」と繰り返しているらしいのだ。
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恩田陸『象と耳鳴り』
恩田陸『象と耳鳴り』祥伝社、1999.11、292p、1700-

曜変天目の夜
新・D坂の殺人事件
給水塔
象と耳鳴り
海にゐるのは人魚ではない
ニューメキシコの月
誰かに聞いた話
廃園
待合室の冒険
机上の論理
往復書簡
魔術師
あとがき


引退した名判事、関根多佳雄が巻き込まれる/ふいに気づく/出会う事件(的なもの)の数々。短編であることが功を奏しているのか、ぎゅぎゅっと密度が濃くて、謎の提示も絡んだ糸が解かれていく過程も快感。例によって恩田なので、読後感が心地よいかはまた別問題w 

妻と美術館へ、曜変天目茶碗を見に行ったことで思い出す、古い友人の10年前の死。最後に会った日、夜空を見上げてかれは言った。「今日は、曜変天目の夜だ」

駅前で小学生の集団に巻き込まれ、骨折して入院している多佳雄のもとに見舞いに来た貝谷は、かつて自分が刑務所に送った死刑囚から、毎夏文面のない絵葉書を受け取っていた。その日持参した絵葉書は、アンセル・アダムスの有名な写真。9人を殺した元医師の死刑囚は、なぜ貝谷に便りを送ってくるのか、かれは何がいいたいのか。ニューメキシコの月

「ここにある四枚の写真。果たしてここからどんな人間像、そんな犯罪者像が導き出されるのでありましょうか」いとこの隆一郎が取り出した写真は、四畳半の和室を撮ったもの。春と秋の兄妹は、ワインバーのカウンタで、検事と弁護士の意地にかけて、その推理を試みる。しかしながらそれは机上の空論

以上3編がマイベスト。

アンセル・アダムスの写真は「エルナンデスの月の出」で、この写真を知らないので画像検索。blogに画像あげてる人は、みんな本書でこの写真の存在を知ったと書いていた。ニューメキシコと聞いたら原爆、と即時連想しなきゃだめだよ貝谷さん。って、わたしの連想が偏っているのか?
魔術師で言及されるS市と元I市のもめごとは、その隣市で小学生だったわたしたちにも、不穏なものとして聞こえてきてた。拡大を続ける都市。内包される矛盾、滲み出る漠然とした不安。いったいわたしたちは何に導かれ、何の意図のもとに、どこに向かっているのだろう?

しっかし、父親が元判事、長男が東京地検の検事、長女が弁護士、次男は何の職なのか、とりあえずトラブルが起きたら関根家に相談しよう。


★★★★
20101016借
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恩田陸『不安な童話』
恩田陸『不安な童話』祥伝社、1994.12、222p、780-

プロローグ
第一章 遠い海への道のりは、ある日、突然に始まる
第二章 海に向かう道は、長くねじれている
第三章 すべての道が、海につながっているように見える
第四章 中には、海を水に終わる者もいる
第五章 海に続く道
エピローグ

解説:大森望


大学で博物学を教える浦田泰山先生のもとで秘書を務める私、万由子の、人にいえない特技は、他人の記憶を「見て」しまうこと。これによって、前の職場であった銀行を退職せざるを得なくなり、変人の浦田先生のもとで、ときどき困りながら、しかしゆったりと働いている。
今日は渋谷に先生と、腐れ縁の今泉俊太郎とでとある個展を見に来た。没後25年経ってからの初個展。画家の名前は高槻倫子。全く知らない名前なのに、全く知らない絵なのに、私は、この絵を見たことがある。
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死んだ、エキセントリックで才能溢れる美貌の画家の、生まれ変わりかもしれないというセンセーショナルなネタがいきなりぶちあげられ、しかも画家の死因は他殺だったという。最近見つかった遺言に従い、絵を届けて歩く画家の息子と万由子。果たしてこの中に、画家を殺した犯人がいるのか。画家はなにゆえ殺されたのか。

ぐいぐい読み進められる、電車通勤にお勧めのライトな1冊。


★★★
20101016借
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恩田陸『訪問者』
恩田陸『訪問者』祥伝社、2009.5、283p、1600-

第一幕 せいめいのれきし
第二幕 ももいろのきりん
第三幕 ちいさいおうち
第四幕 かわいそうなぞう
第五幕 ふるやのもり
終幕  おおきなかぶ


事故死した親友であり新進の映画監督でもあった峠雅彦の遺言状を執行するため、週刊誌の記者と偽って、別荘を訪れた弁護士の井上と峠の仕事仲間である長田。その別荘は、3年前に亡くなった実業家、朝霞千沙子が建てたもので、千沙子の死後、その兄弟たちによって維持されている。長男千蔵、次男千次、三男千衛、次女千恵子、その夫協一郎。湖を一望できる丘の上に建つ別荘。湖を含めた広大な土地も、千沙子の持ち物であった。孤児であった峠は幼いころ、ここに開かれていた保育所で、千沙子に育てられたのだという。

遺言状の内容は、峠の父親だと名乗った人間に、自分の映画の著作権を渡すというもの。この中に父がいるというのか。
疑惑の別荘に、新たな訪問者が訪れる。
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人里離れた別荘、目の前には湖、周辺は深い森。豪華ではないけれども良質の材料を用いて丁寧に作られた、居心地のよい場所。さまざまな理由で人が集まり、提示される謎、疑問視されるキーパーソンの死因、そこで起こる惨劇、期限つきでの外界との遮断。
いいぞいいぞ、クローズド・サークル。
遺言状の公開と、その奇妙な遺言に動揺する残された人々。キーとなるシナリオの「象を撫でる」という、薄ら気持ち悪いタイトル。何かが起こっているような、または既に終わってしまったような、今まさに渦中であるような、しかしその全容は明らかではない。
いいぞいいぞ、わくわく。

そう読み進めている間にも、頭のどこかが警鐘を鳴らす。
これは恩田陸だぞ、とw
どこで何がしかけられているかわからんぞ、と。

事情を全て整理してみれば、そこに事件はなかった、という、そもそもミステリであることを放棄したようにも見える結末。「事件」という象の存在を疑わず、自分が触り得た情報を提示しあっていたに過ぎないという肩透かし。
ううむ、やるな。
小野寺の「ある意味で、皆さんは事件にしよう、事件を作ろうとしているようにも見えるんです」(217)は、けだし至言。ミステリの暗黙の了解を、こんなふうに利用してしまうとは。

恩田の手腕と、ミステリというジャンルのある意味行き詰まりとの両方を実感できる1作だった。


★★★
20101010借
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恩田陸『私の家では何も起こらない』
恩田陸『私の家では何も起こらない』メディアファクトリー、2010.1、199p、1300-

私の家では何も起こらない
私は風の音に耳を澄ます
我々は失敗しつつある
あたしたちは互いの影を踏む
僕の可愛いお気に入り
奴らは夜に這ってくる
素敵なあなた
俺と彼らと彼女たち
私の家へようこそ
附記・われらの時代



丘の上の「ちいさないえ」。
その家を建てた人は失踪、
その後買った若夫婦は事故死と自殺、
その後買った男性の家政婦は近所の子どもを拉致殺害解体して調理し、雇い主に食べさせて、
その後買った老姉妹は、台所で料理中に互いに包丁を突き立て死亡、
幽霊屋敷と名高いそこを新たに買ったのは、家を建てた人の姪。なぜこんな家にひとりで住んでいられるのか、さまざまな人がおせっかいを焼くけれど、私の家では何も起こらない。死者たちは優しく、ひっそりと佇んでいるだけだから。
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稀代の不運が続く家をめぐる、生者と死者のつづれ織り。ぞくぞくと背後が寒くなるような感じはあまりないが、読後にじわじわと暗がりが怖くなるような本。起こることがあまりに生々しく悲劇すぎる。その中での唯一の清涼剤だった俺と彼らと彼女たちがマイベスト。大工さんすげぇよ。
あと、ノンブルと柱のデザインが素敵。3行になった柱がなんとなく、見た目的にじわじわと恐怖心をそそるところがまた。

★★★
20101010借
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恩田陸『不連続の世界』
恩田陸『不連続の世界 The Discontinuous Circle』幻冬舎、2008.7、289p、1600-

木守り男
悪魔を憐れむ歌
幻影キネマ
砂丘ピクニック
夜明けのガスパール


塚崎多聞シリーズ。
「70年代ハウス」のある、川べりの桜並木に垣間見えることがある幽霊的な存在をめぐる木守り男
地方のFM局で2回流されたギターの弾き語りを聞いた人間は死ぬ。その噂と、どこを探しても見つからない、その音源を探してN市に向かう、悪魔を憐れむ歌
多聞がプロデュースし、今度デビューするバンドのPVは、バンドのリーダー保の出身地でもあるO市で撮影されることになった。映画のロケ地としても名高いO市でしかし、保がなんらかのロケを見るたびに、不可解な人死にが起こっているという。保が最初に見た映画は、白壁に投影された、赤い犬が延々走りまわるものだったという。幻影キネマ
一瞬にして砂丘が消えた、そのトリックは何か。翻訳家の知人と、かの女が翻訳中の本の中の記述を確かめるためにT砂丘に訪れる、砂丘ピクニック。一瞬にして風景が変わる。日常の中の非日常。何事もなく続いているようなふりをして、実は不連続の世界。
夜行列車で高松に行って、うどんを食べて飛行機で帰京する。酔狂なツアーには、外科医の水島、作曲家の尾上、検事の黒田、そして多聞が参加した。流れる車窓をつまみにして、夜通し語られる不思議な話。そこには多聞が逃げ続けている何かへの示唆が確かにあった。夜明けのガスパール
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どれも読み応えのある短編集。書かれた時期が長期に渡るものの、それがかえって味になる。どちらかといえば傍観者的に巻き込まれる役回りだった多聞が、自分が当事者として自分に対峙しなければならない夜明けのガスパールと、「赤い犬」の正体が夢に出てきそうな幻影キネマがお気に入り。

★★★★
20100919借
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