活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
若井春侑『無花果日誌』
若井春侑『無花果日誌』角川書店、
2002、203p、1500-

花が咲くのに無花果だなんて
乳房よ、乳房、永遠の
たおやかに、しなやかに、やわらかに
奉仕の気持ちになることなんです
根性の使い道を誤ってはイケナイのだ
怒って鎮まれ! 十七歳、夏休みは近い
真夏の箱庭で迷子になった、ふたり
取り敢えず、ナニゴトもなしの憂鬱
教えて。命の在り処は、誰が決めるの?
曖昧な果実はフリーザーの中で
走り出す。直線で行くと決めた
謹賀新年。真正面の彼方にあるものは


かつて日本有数の水揚げ高を誇ったという漁港がある、
いまはさびれた町に生まれ育った私の実家は青果店。
乳ガンで母を亡くしてから、父と、弟と、私の3人で、
この店を回している。いわば私は看板娘。
電車で30分南下した県庁所在地にある高校は、
カトリック系名門女子高。
この街から出るために推薦で入学したのだ。
ひとつ上のボーイフレンド、郁くんは、
母が入院していたとき隣のベッドだった加代子さんの息子。
その進展も含め、私は思春期の真っ直中にいる、
ただの子どもだ。
ただの子どもだということを自覚している、高校2年生だ。
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この人の本は2冊目。
作品によって読みやすさにムラがある人だなあ(笑。
ただの内省的でプライドだけ高い、所詮思春期の少女の日記、
という器に収まらない、深い話。
真摯にものごと(自分を含む)を見つめて、
考えることを放棄しないと、こんなにも深く
日常を生きることができるんだなあ。

★★★★
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若合春侑『蜉蝣』
若合春侑『蜉蝣』角川書店、2003、201p、1700-

二・二六事件前夜、東京。
次第に軍国主義の色を増していくとはいえ、
それでもまだまだ、芸術を楽しむゆとりはある。
主人公、帰依は上野のカフェの女給である。
腕のいい大工だった父がけがをし、家計が傾いたため
若いうちから奉公に出、奉公先の主人に手込めにされて
妊娠、堕胎というつらい経験を負ったのち、
美学生たちが集まるカフェに勤め始めた。
常連の学生たちに頼み込まれ、週に1度、上野の美学校で
ヌードモデルをしている。

かの女をデッサンする学生のひとり、髪も肌も美しい
青年、榊と恋に落ちるが、夏休みの終わり、
かれは誰にも告げず行方をくらませた。
失意の中、榊を思い切ろうとする帰依は、以前海辺の
旅館で出会った紳士に乞われ、その妻になる。
その紳士は、残酷絵の絵師、佐々愁雨だった。

日々愁雨に苛まれ、その姿を描かれる帰依。
傷だらけになるかの女を、いつも優しく介抱する
愁雨の弟子、佐吉。
実家に届いていた榊からの手紙。
なんと榊はパリ万博に作品を出展するために
渡欧していたのだ。
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タイトルのルビが「かげろふ」だったので
そうなのかな、とは思ったけど、全編旧仮名遣い。
おおおお、これは挑戦だ、挑戦だな、と思ったけど
意外にもあっさり順応。

ここしばらく旧字旧仮名に触れてなかったので、
もっと難航するかと思ったのだけれど。
ちなみにこの作者、「わかい・すう」と読むらしい。
あ、「腦病院へまゐります。」の人なのか。
初めて読んだ。

それにして、男運のない主人公だなあ!
たまさか憤り、それでもしかたないと諦め、
恋をしては自分を穢れた人間だと卑下する。
自己評価が低いので、乞われる(恋われる)と
うれしくて、自分も相手を愛してしまう。

与えられた状況以外の場所で生きていきたいと
思いつつ、結局は自分の知っている範囲でしか
自由でいられないということも自覚していた。
愛する人と死ねてよかったんだろうな、とも思う
けど、もう少しなんかできなかったの、とも思う。
帰依の被虐体質が状況悪くしてるのは明らかだし、
なんか、もっと、こう、さ…

しかし残酷絵の絵師が、まんま嗜虐趣味だというのも
ちょっとひねりがなくてつまらんね。
実際モデルに血を流させないと描けないのだとしたら、
それはそれで絵師の技倆を疑うし。
榊を渡欧させたパトロンも実は愁雨だった、っていう
全ての黒幕が愁雨というのも、ちょっと役者が足りない感じ。

でもおもしろかっった。
気力があるとき、他の作品も読んでみようと思う。

★★★
20070129借
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