活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
もりもと崇『難波鉦異本』
もりもと崇『難波鉦異本(なにわどらいほん)』
エンターブレイン
上:2010.1、253p、620- 初出2001.5-2002.5「斬鬼」(少年画報社)ほか
中:2010.1、262p、620- 初出2002.7-2004.4「斬鬼」(少年画報社)ほか
下:2010.2、245p、620- 初出2003.12-2004.10「斬鬼」(少年画報社)ほか



実に恐ろしいことに、前のエントリから半年が経過してしまった。
書きかけたが書き上げられず非公開のままのエントリが山ほど、
読むだけ読んで書いていない本がそれ以上、
読んだものをすべて記録する、という目標がまったく達成されてない。
まあ、仕事で読んでるものは含んでないから、
厳密に「すべて」ではないんだけど。
それとこのblogのテンプレとかがちょっと不便で、
別blogに移行しようかな、でもえらいこと面倒くさいなあ、
などという試行のうちに、あっちゅう間です。
もたもたしてると『3月のライオン』の新刊が出かねないw


今日は頑張って書く。

雑誌「斬鬼」の伝説の連載「難波鉦異本」の初単行本化。
1月に2冊買ってたんだけど、全巻揃ってからレビューしようと
待っていたのです。本当です。気づいたら3月とかではありません。

元禄期、大坂は新町、扇屋の女郎・和泉と禿のささら、
上客の西鶴とその周辺の人間模様。
底本は「色道諸分 難波鉦」という1680年に刊行された、
新町遊廓の遊女評判記。
伝本は天理図書館本、東洋文庫本の2つだか、
本作は岩波文庫の翻刻版をもとにしている。
難波のドラ息子がいかに遊郭で遊ぶか、というガイドブックらしい。

和泉はその中で、伝説の遊女・夕霧の妹分として登場する。
置屋扇屋の、位は天神。それ以上の説明はない。
別にたいした内容ではない(らしいw 上巻あとがきより)。
その和泉付きの個性豊かな禿・ささらを語り部にして、
新町まわりを中心とした、元禄の大坂をいきいきと描く。

底本にはストーリーのようなものはないから、
作者がさまざまな作品から編み上げたオリジナル。
和泉は背が高くて気位も高くて、三絃の腕は「男だったら
竹本座に上げたい」と称されるほどだが、口が悪く守銭奴、
というキャラとして描かれる。
怒涛のようにドラマが進むわけでもなく、
別に時代劇のように何かの陰謀に巻き込まれたりするわけでなく。

新町は江戸吉原のように縛りの厳しい遊郭ではなかったとはいうが
和泉たちは売られてそこにやってきた者たちだ。
年季に縛られ、体調管理は自己の責任で、
妊娠堕胎などをして容姿が衰えれば位が落ち、
位が落ちて花代が下がれば年季が伸びる、という世界。

和泉はそこで、いかに生き抜くかという技に長け、
その技をささらに教え込もうとする。
ただその技は、遊女たちの中では必須スキルとは認識されていない、
金勘定のことが中心である。天神のような上位の遊女になると、
金勘定には細かくない方が上品とされるため、
多くの遊女は自分がいくらの借金を抱えているか、
よく把握もしていない。

そんな中、和泉は算盤勘定、天秤の見方、
九九ごころか九十九・九十九の暗記をささらに強いる。
三絃や踊りを仕込んでほしいささらは抵抗するが、
そこで和泉がいい聞かせるのは
「身ィ守る方法/知らんまんま/身売る芸/覚えたいんか?」
「出世よりも先に/生きて退廓/できるよう/頭使え」
「廓では誰も/おまえを/守ってくれん」
「せめて/むしり取られん/知恵だけは/つけたるわい」
(上巻)

それは、和泉はその姉女郎・夕霧が和泉に説いた
「人に気に入られよ/思って/卑屈な笑み/浮かべんな」
「堂々としとれ/わたいら/売りとばされた/身とはいえ/
 何ぞ悪さして/地獄へ落とされた/わけやないんや/から」
(上巻)
という哲学に、通ずるものがある。

目眩がするほどの気位、したたかな気丈さ。

和泉は遊女として優れた才覚を表しながらも、
それは生き抜く手段に過ぎないということを厳しく自覚し、
廓から出て行くこと、出て行ったあとのことを
考え続けているのだ。


もちろん、そのかの女らを買いに来るたくさんの客たちとの
さまざまなやりとりが話の中心ではある。
しかし中心にあるかの女らの哲学が、
本作の、ある種、凛とした雰囲気ともなっているような気がする。

舞台が大阪というのもよい。
豊臣が滅んだ夏の陣から60年以上経ったが、
焼け跡の、多くの骸の上に今の町があることを、
ことあるごとに人々は実感しつつ生きるのである。
再建中の大坂城、その足組みを遠望しながら
畳に滂沱と落涙する、元真田の家臣の、その表情、そのアングル。


わたしとしては「チンチクリン」「デコ目玉」「ホッペタ目玉」と
評され続けるささらが、どんないい女になったのか、
どんな新造になったのか、そこまで描いてほしかったなー。
和泉が、2代目夕霧の候補が「禿の中にいないわけでもない」と
いうけれど、それはささらのことだと思うんだよね。

ともあれおすすめ。
時間を忘れます。

2010.1-2購入
★★★★
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森薫『エマ』第10巻(最終巻)
森薫『エマ』第10巻(最終巻)、
エンターブレイン、2008.5、
237p、660-


番外編8話。
第13話 自転車:エマとおぼっちゃまの日々
第14話 アデーレの幸せ:スーパーメイドの胸の内
第15話 規律:弟くんのきまじめスクールライフ
第16話 後日:好きに生きて下さい
第17話 いつまでも愉しき日々:4コマ
第18話 新しい時代(前編):20世紀だ!
第19話 新しい時代(中編):ロンドンだ!
最終話  新しい時代(後編):結婚式だ!
-----------
いやあ、お疲れさまでした(笑。
ヴィクトリア朝とエドワード朝の髪型が書き分けてあるー(笑。
4コマのタイトルのつけ方には、もう少しセンスが必要かな。
16話の吹き出しのフォントが、他の回と違う気がする。
結婚式、エマがとても美しくて悪くなかったけど、
30年後のふたり、とかも見てみたかったかな。
次回作は「返せるアテがない」に期待(笑。

2008.4.25購入 ★★★
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森薫『エマ』第9巻
森薫『エマ』第9巻、エンターブレイン、2007、
213p、620-


外伝集第2編。
ピクニックに行った先ではぐれた飼いリスを探しに行く
メルダース家の長男、「エーリヒとテオ」
エマがウィリアムの婚約パーティに駆り出されていって
大騒ぎをしてる間に、「新婚時代を思い出して」(by3巻)
いちゃこらしているメルダース家の主人夫妻の赤面な
朝の一幕「歌の翼に乗せて」、幼少時、インドで初めて
出会ったウィリアムとハキムの「友情」、買い出しついでに
さまざまなお買い物を楽しむメルダース家のメイドたち、
「二人でお買いもの」、ウィリアムとエレノアが見に行った
「フィガロの結婚」の舞台裏人間模様、
「三人の歌手」(前後編)の全6編。
-----------
見開きでリス描いたり、手描いたり、髪描いたり、
ターバン描いたり、で幸せになれる作者はすごいなあ(笑。
本編を見直して見比べると、ほんと絵うまくなってる。
まあ外伝に関しては多少趣味に走りすぎな感が(笑。
「友情」に出てくる通訳のかれが素敵だ!
インテリめがねー! そして凝ったターバン!
インドとイギリスの関係については、確かにもっと
つっこんでほしかったところ。
ヴィルヘルム・メルダースの若い頃にもびっくり。
この人、イギリス人とドイツ人を描き分けられるんだ。
愛だなあ(笑。

さて、次巻で「エマ」終了。どうオチをつけるかな。
この作者、メイドじゃなくてもやってけるわ、きっと。

20070921購入
★★★
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森 薫『エマ』第8巻
森薫『エマ』第8巻、エンターブレイン、2007、202p、620-

外伝集。
新婚のケリー先生夫妻が食費を切りつめて入場料を捻出し、
万国博覧会に行く「夢の水晶宮」前後編、パパから保養に出された
エレノアの、保養先「ブライトンの海」でのできごと。前後編。
タイムス紙が織りなす、ロンドン市民たちの人間模様、「The Times」
帰省したターシャの一日、「家族と」の全6編。

わたしは勝手に、エマはほんとはどっかの貴族のご落胤で、お父さんが
わかったりして貴族に列せられて、ぼっちゃんとぶじ、という筋書きになるかと
妄想していたので、何故かこの外伝に期待していたり(笑。
とりあえずエレノア! お前それでいいのか(笑。
天才料理人エドナが独立して頑張っててよかった♪

2007.4購入
★★★
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松田洋子『赤い文化住宅の初子』
松田洋子『赤い文化住宅の初子』太田出版、2003、175p、952-

赤い文化住宅の初子/PAINT IT BLUE


う、うわっ。
気になっていたので、ついに購入。
だって、漫画喫茶とかに置いてそうにもないし(笑。
なんかこう、見るからに暗そうだし、
たまたま暗い気分だったし、というわけで。

…これはすごい。
出版当時に、まだこの語はなかったと思うけど、
ワーキング・プアって、こういうこと?

どう考えても、経済的に豊かにはなれそうにないループに、
中学生ながらどっぷり浸かっている初子。
経済的な事情で、高校進学もあきらめる。
この国で幸せになるには、ある程度の経済力が不可欠なのか。
いや、かの女には、どんな状況になろうとも消えぬ、
希望の光があった。


うーん、とりあえず「すごい」とはいえる。
ただ、手放しで評価はし難い感じ。
なんか、これじゃそのまんまじゃん、というか
読み物としてどうなんだろう、という気がする。
しかし、どうにも看過しえぬ、何かもある。

左前の鉄工所を継いだ、時郎くんの、
なんともいえない青春を描く2作目の方が、
はっちゃけまくってて好感が持てるかな。
気に入ってるのは
「今わしにゃあスタハノフの背後霊がついて増産でハラショー!!」
「増産増産 お鼻が長いのは象さんでハラショー」(144p)
たまりません(笑。

★★★
20061205購入。
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森 薫『エマ』第7巻
森 薫『エマ』第7巻(エンターブレイン)
 
シリーズ最終巻。
このストーリーで設定で、これ以外の結末を迎えられるのか、という
鉄板なエンディング。
「そしてみんな幸せに暮らしました …少しの例外を除いて」の典型。
そこに至るまでの物語が、丁寧になぞられていたのがとてもよかった。
まだまだハードルは高いけど、ふたりで頑張っていってね、という感じ。

ただ、ウィリアムが何故そこまでエマに固執し、かの女を愛するのか、
という点についての描写が、ほとんどなかったのが気になる。
あと、周囲の人物の書き込みが多すぎて、細かすぎて、
どこが本当に重要なのかがちょっと曖昧になってしまってる部分も
あるように思う。モニカうざい。

この人のこれからの課題は、キャラクタにどれだけ人間的厚みを出せるか、
メイド以外のネタを描けるか、の2点な気がする。

★★★
20060528購入。
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