活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
選ばれた少女の至る「月の島」:篠田真由美『緑金書房午睡譚』
篠田真由美『緑金書房午睡譚』講談社、2010.4初版、2010.5第3刷、296p、1600-
第一章 月の島
第二章 ミッドサマー・アフタヌーンに見る夢は
第三章 鏡の向こうになにがある
第四章 どんなときでも目はつぶらずに
終章  クロさんひとり語り


シェークスピアの研究者である父が、1年間の研究休暇でイギリスに滞在するあいだ、比奈子は母方の遠い親戚という古書店に預けられることになった。特にイギリスの古書に詳しいという緑金書房は月島にある。その古風な古書店の屋根裏部屋で、親戚のロクロウさんと過ごす夏休み。父の過去、早世した母の謎に、直面していくことになる。装画は波津彬子。
がんばってファンタジー調にしないほうがよかったんじゃないかという痛々しさ。ヨーロッパの幻想世界につながっていくのには、どうも首肯できない。クロゼットの奥に続く森と街灯に憧れて、押し入れにこもってみた経験がある人には、これを以てファンタジーとされるのは、ちょっとあまりに物足りない。

★★20101128借
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千草子『洛中洛外』
千草子『洛中洛外 清原宣賢の妻』講談社、2003.12、312p、2200- 

上杉本洛中洛外図屏風の祖本となる屏風を描き上げた絵師と、その芸術に捧げる魂に共感し、夫のもとを出奔した女性の、家を出てから、越後へ下るまでの、伏見での日々を描いた作品。
登場人物の関係性が全然つかめずに動揺したが、わざわざ説明しない姿勢に好感が持てるようになっていく不思議。あとがきによると、『翠子―清原宣賢の妻』(講談社、1999)という前作があるらしい。概略が示されているが、それはだいたい本作を読んで想定したこととそんなにずれていなかった。というわけで、この本だけいきなり読んでもOK。
女性である自分、書の道を極めたい書家としての自分、母としての、祖母としての、妻としての自分。そういったいくつもの自分を抱える中で、それでも最後に自分の意志で進みたいと思うのは、書家としての自分、書家として成るためなら、恋すら邪魔でしかないと断言する壮絶な自覚。
独特の文体ではあるけれど、あるからこそ、一読の価値のある1冊。秋の夜長に。最初の10ページでくじけないことを推奨。

20101110★★★★
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塩野七生『絵で見る十字軍物語』
塩野七生『絵で見る十字軍物語』新潮社、2010.7、205p、2200-

フランソワ・ミショー『十字軍の歴史』。に、ギュスターヴ・ドレが描いた挿し絵。に、著者が注釈を入れて再構成。木口木版の精緻な絵でたどる、十字軍の通史。第一次十字軍が起つ以前からの、イスラムとキリスト教徒との交流から絵は始まり、1571年レパントの海戦で幕を閉じる。その間、約500年。
絵で示された場所を地図に投影したのが大成功。地理なきところで歴史は動かない、それは間違いない。
簡潔で的確な文章、ぱっと見てもしみじみ見つめても飽きない絵、堪能。

ところでこれは、刊行が始まった「十字軍物語」シリーズの序章らしい。どうしようかな、買うべきかなあ。「ローマ人の物語」の刊行開始は中学生の頃で、あの当時、2500円という金額がえらく高く感じられて手を出せなかったことを、大学に入ってから後悔した。年に1冊だったんだから買えたと思うんだよね、今では。文庫になってから手を出したけど、この文庫、えらいこと読みにくい。分冊しすぎ。ついでにいうと、途中で飽きた。
というごくごく個人的な顛末があるので、今回のシリーズにもちょっと悩んじゃう。けど、全4冊だしもうおとなだし、買うか! とりあえず1巻買ってこよう。

カテゴライズに悩んだけど、「ローマ人の物語」も分類的には小説だし、ということで、学術書ではなく小説に分類。


2010.8購入
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墨谷渉『潰玉』
墨谷渉『潰玉 かいぎょく』文藝春秋、2009.9、158p、1143-

潰玉
歓び組合



弁護士をしている青木にはおやじ狩りに遭いたい奇妙な欲求がある。その日、からまれた(そのように仕向けた)ふたり組みの少女の、特に浅黒い肌のほうの動きは尋常ではなかった。ミュールをつっかけた足の甲で、的確に睾丸を打ち上げられた。浅黒い肌の亜佐美も、なぜ顔面殴打ではなく急所打ちをしてしまったのかがわからなかった。気づいてしまい、目覚めてしまい、出会ってしまったふたりの、限界への挑戦の序章。
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ちょっとなかなかついていきにくい世界の表題作と、信託銀行に勤務していた「わたくし」が、たまたま担当したサカイザワ夫人に見出され、とある組合でQUEENに調教されていくまでの過程をたどった掌編の2本立て。
強いていうなら、2本めのほうがまだ世界に入れるような。
何が青木をして、亜佐美をして、睾丸を潰すような欲求に駆り立たしめているのかが全然わからず、置いてけぼりをされたような感じで途方にくれる。ただひたすらに、こうあった、という状況の説明と、刹那の感情のみで進んでいく物語。ひたすらの欲望というにも切迫感がなく、行動だけがエスカレートしていく印象。でも、その切迫感のなさ、が却ってかれらの悲劇であり、興味深いところなのかもしれないが。

★★

20101010借
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墨谷渉『パワー系181』
墨谷渉『パワー系181』集英社、2008.1、129p、1300-

パワー系181
外伝―測量男の手記



7年勤めた「準大手パソコン周辺機器メーカー」を退職し、自宅のあるマンションの2階にもう1室部屋を借りた梨香は、その部屋でとある仕事を始める。180cmを超える身長に、筋肉でボリュームをつけた圧迫感のある身体を、シルバーの衣装に包み、ヒールの高い、黒いレザーのブーツを履き、赤いソファに座って脚を組み、客を待つ。
友人の葉子が心配するような風俗ではない。「金払わせてイヤラシー男を懲らしめる」(14)ためでもない。「風俗じゃないんだけどマニアックな雰囲気」の「わかる人にはわかる」「瞬時にわかる」(以上34)お店。
梨香のパワーで、頬を張られたり、技をかけられたり、あるいは着衣を交換したりしたい、おもに小柄な男性たちが訪れる場所。それが求められているし、実はいちばん求めているのは梨香本人だ。HPの名前は「パワー系個人クラブ・リカのお部屋」。
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第31回すばる文学賞受賞作と、そのスピンオフ作品を収録。
男性に技をかけて「落とす」瞬間に、どうしようもない興奮を覚える主人公が、その欲求と世のニーズを満たすために立ち上げるお店の、開店から数週間の話。
そのために筋肉を鍛え続けている梨香の、自覚されない渇きは、“自分より大柄な風俗嬢に罵られたのちにフェラチオを強制する”ことで日々のコンプレックスとフラストレーションを解消している小柄な男性、瀬川を「落と」したことで、癒される方向性を見つけるのだ。

なるほど、という感じではある。
明らかに社会一般の標準からはずれているけれど、逸脱というほどでもない、ほんのちょっとのずれ感、をうまく読ませているといえると思う。ふつーに引いてしまう人も少なくなさそうだけどw
あと、あんかけスパって、名古屋では、ふつーのOLとかがわざわざ喜んで食べに行く食べものなのかな。もっと若い世代の食べものかと思っていた。

★★★
20101010借
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佐藤哲也『下りの船』
佐藤哲也『下りの船』早川書房、2009.7、225p、1600-

風景/家族/群衆/時間/移民/旅程/雨音/指輪/仕事/
吐息/孤児/船旅/都市/記事/文明/小鳥/少年/湿原/
交易/旅人/歴史/季節/沈黙/泥流/脱出/党派/抵抗/
収穫/死者/生者/兵士/午後/砲艦/戦場/遭遇/伝説/
肖像/風景


麦が細々ととれる、風の強い村の、
ある老夫婦の家の前に捨てられた赤ん坊は、
老夫婦によって大切に育てられ、よく働く少年になった。
移動教室の教師は、この世界が膨大に広いことを語るが、
その実感は少年たちにはなかった。
ある日、銃を持った兵士たちが村を取り囲み、
移住を強制させられるまでは。

歩きつくした先の痩せた土地で、難民のようにテントを張って
少年たちは3年生き延びる。
そしてある日名前が呼ばれ、老夫婦ともども「船」に乗せられる。
行き先も知らされぬまま、3日分の食料のみを持たされて。
「船」は、黒い、巨大な四角錐。
このことばを少年は知らなかったが、それはピラミッドによく似ていた。
「船」は、16光年離れた惑星に移民を送り込む、
超光速宇宙船だったのだ。
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さすが『イラハイ』!
まるで歴史そのものが語り手であるかのように、
淡々と年表を繰るように、鳥瞰するカメラからの映像のように、
感情のない地の文で、物語は進んでいく。
ときおり、そこに生きる人間にふっ、とフォーカスして、
また遠ざかる。
送り込まれた少年も、そのフォーカスされる人間のひとりだ。

膨大に移民を送り込み、鉱物資源を大量に送らせていても、
移民星を整備しようなどという気はさらさらなさ気な「地球」。
まったく機能していない社会組織。横行する横領。
システムの一部としてある反政府組織。融合する伝説。

かなり切なくなるやりきれない結末(ある意味では)を
迎えるのだけれども、それでもこの星の生活は続いていく。

なんだか、とんでもないものを読んでしまった、という感。
『イラハイ』といい、『妻の帝国』といい、作者のテーマは
歴史や国家なのでは?という気がしてくる。
そしてその中に生きる人間なのでは?と。

★★★
20090731借
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島本理生『シルエット』
島本理生『シルエット』講談社、2001.10、159p、1300-

シルエット
植物たちの呼吸
ヨル


2年前、父親に刺されて以来しゃべることを放棄し、
寝たきりになった母親とふたり暮らしの冠くん。
彼の、霧雨をまとったような空気に、わたしはすっかりおおわれた。
わたしたちの雨は降り止まないようだった。
幼い頃、母が家出と浮気を繰り返していたことから、
女性の体に触れることを極端にいやがる冠くんと、
だからわたしは手をつないだことさえない。
8月3日の、別れ話のときまでは。
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そんなやつさっさと胸の小箱にしまって次行こ次!(笑
といえるのは、きっとわたしがすっかりおとなに
なってしまったからなんだろう。
冠くんとの別れというより、冠くんに本質的には受け入れられて
いなかった、という認識のほうが、長く深く痛く、かの女を
苦しめる。
しかし何をしていても、優しい新しい恋人と一緒にいても、
ふとしたはずみでその苦しみは、何度でも顔を出して、
かの女の心を止めるのだ。

冷静で客観的であろうとしつつ、どうしようもなくそうなれない、
でもそこはジレンマとしては意識されない思春期。
どんな変化があったのだとしても、冠くんははじめに、
あんなことをいわないほうがよかったんじゃないだろうか。
去り行く者はいくらでも感傷を置き去りにすることができるが、
残る者の気持ちはおそらく永遠に、向こうには伝わらないのだから。

★★★
20090305借
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笙野頼子『太陽の巫女』
笙野頼子『太陽の巫女』文藝春秋、1997.12、
201p、1429-

太陽の巫女
竜女の葬送


父方の一族では、2代にひとり、太陽の巫女として、
冬至の太陽に嫁ぐ女性が現れる。一族に繁栄をもたらすために。
私、滝波八雲は、その巫女となるべく、冬至の前日である今日、
海に面した部屋で儀式に臨む。
少女の頃から感じていた「彼」の気配が、夫となるべき太陽だと
わかってから、私はこの儀式に臨むべく、その力を現してきたのだ。
「彼」は、母の一族の祖先であるといわれる竜の太陽神がこの地に降臨した際に、
これに遠慮して千に分かれた蛇の太陽神であるともいわれる。
一族の間でのみ「神代から」続いてきたこととされている儀式ではあるが、
私は確かに「彼」の気配を感じ、「彼」に恋をし、「彼」と婚姻を結ぶために
ここにいるのだ。

八雲と冬至の太陽の婚姻がぶじ成ってから半年、竜の一族である母、
誇り高い竜女である母が「竜の病」に倒れた。
「竜の病」は、竜女が人間であることから解放され、
天に還るときにかかるといわれるもので、現在では病名がついている。
細胞の突然変異。見つかれば、あとは助かるすべはなく、
時間の経過ともに衰弱していく竜女を、その「使い女」と家族が、看取るしかない。
竜女の葬送までの期間、八雲は夫に暇乞いをし、母の元へ帰ってくる。
母の「使い女」でもある八雲が、母との関係を、その短い時間の間で確認していく、
その心のひだ、かの女らを苛む目に見えないものたちの声。
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初読は高校時代。やっぱり1年くらい前にAmazonで衝動買い。
笙野頼子、ぶち抜きでこの話が好きだ。
というか、他のやつはちょっとついていけない(笑。

ひとことひとことが美しく、完璧。
内容的にも、「竜女の葬送」までつなげて読んだほうがすっきりするかな。
どっちも甲乙つけがたく好きです。

★★★★
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斎藤綾子『欠陥住宅物語』
斎藤綾子『欠陥住宅物語』幻冬舎、
2003、103p、1400-

第一章 家を探せば
第二章 家を出ると
第三章 家を買ったら


文筆業、30代、女性、独身、の主人公に降りかかる、
男と住宅絡みの災難録。兼うまくいかない母離れ譚。
どうして、安心して帰れる住宅がないのだろう。
ようやく見つけた中古都内一戸建てを購入したはいいが、
そこはびっくりの欠陥住宅だった。
泣き寝入りなんかするものか!
不動産会社と建築会社を相手取り、
訴訟を起こすことにする主人公。
しかしその煩雑きわまりないこと…
しかしあきらめない、マイホームに安心して住むまでは!
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いや、男見る目なさすぎるんじゃないか?(笑
おもしろかったけどちょっと疲れた。

★★★
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瀬尾まいこ『図書館の神様』
瀬尾まいこ『図書館の神様』マガジンハウス、2003(2004第3版)、
165p、1200-


子どものころからバレーボール一筋だった主人公だが、
高校時代のふとした事件で、バレーはおろか、
友人とも、教師とも、親からすら離れて、田舎の大学に
進学することになる。
そのままそこで、高校の国語講師として働き始めるが、
自分の希望とは裏腹に、配属された部活は文芸部だった。。

部員1名。
へんに筋肉が美しいその生徒は、中学時代にサッカー部の
主将をしており、その際に部員を怪我させたことを機に、
サッカーから手を引いた少年だった。
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タイトル借り(笑。すばらしいタイトルだ!(笑
読み始めたときは、こんな教師どうしよう、と思っていたけど、
中盤ぐんぐん追い上げてきて、たいへんよかった。
バレーを人生から失った、そのことに固執して、何もかも
どうでもよくなっていた主人公が、みずからの意志で
さまざまに動いていくようになる、その過程にまず拍手。

教員採用試験の描写で、この人絶対経験者だ、と思ったが、
現役の中学教師らしい。なるほど(笑。
この主人公、こういう生き方をすることになってよかったね、
と思う。
淡々とした筆致も、そんなに独創性ないけどなかなかに
味がある感じで。この恋人はどう考えてもいまいちだけど、、

つうか、ここの高校、司書教諭いないの?
学校図書館の本の配列が、OPACに準じていなければならない、
という決まりはきっとないと思うけど、
配置換えを文芸部が独断で決めて、実行していいなんて(笑。

★★★
20070117借
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