活字中毒者の乱読日記 印象批判100%
藤木稟『バチカン奇跡調査官』
藤木稟『バチカン奇跡調査官』角川書店、325p、2007.12初版、2008.2再版、1500-

プロローグ 天使と悪魔のゲーム
第一章 聖徒の座
第二章 セントロザリオ学院の変事
第三章 殺人事件とマリアの嘆き
第四章 浮かび上がったルーン文字
第五章 開かずの間の秘密
第六章 ウィージャ盤の解読
第七章 地下に潜む亡霊
エピローグ 天使と悪魔の戦い


ロベルト・ニコラスと平賀・ヨゼフ・庚はともにバチカンの「聖徒の座」に所属する神父である。聖徒の座とは、バチカン中央行政機構のひとつ、列星省に属する。世界中から寄せられる「奇跡の申告」に対して調査をおこなったうえで、それを奇跡と認めるかを判断し、枢機卿によって構成される奇跡調査委員会に報告する部署である。
その日、ふたりに課せられたのは難題の案件。それはアメリカのとある教会に所属する修道女が「大天使のお告げで処女妊娠した」というものだった。
奇跡調査官が派遣されるほどもなさそうな案件でありながら、救世主の受肉がふたたびおこなわれたのだとすれば、それはバチカンの根幹に関わる問題になる。また、そこにはバチカン内での政治的駆け引きが関係しており、場合によっては調査官の身に危険が及びかねない切迫したものでもあった。
しかし平賀には引き受けざるを得ない事情があり、また、申告された「奇跡」への興味と好奇心とが、ふたりをアメリカの地に誘った。
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スー・ハリソン『姉なる月』
スー・ハリソン、行方昭夫訳
『姉なる月  アリューシャン黙示録第2部』
晶文社、1996.2
上巻:第一部 宿命、334p、1700-
下巻:第二部 戦い、308p、1700-


〈黒曜石〉は〈筋肉〉とめぐりあい、かれの妻となって暮らしていた。
短身族の男の血を引く息子の〈ナイフ〉と、
筋肉の亡き妻の息子〈血〉は、兄弟として育てられていた。

〈筋肉〉のもとの村から一緒にやってきたのは、
〈筋肉〉の子どもたち、〈大きな歯〉と妻たち、
〈灰色の鳥〉と、その妻。
〈大きな歯〉は漁でも、村内の差配でも〈筋肉〉の片腕として
尽力してくれるが、〈灰色の鳥〉は獲物を捕る腕も優れておらず、
何かと村のみなの好意にすがって生きていた。
しかし〈灰色の鳥〉は感謝するどころか、それが当然という態度を
示し、妻への虐待も含め、常に村の懸案事項となっていた。

男子は狩人になって、家族と村とに獲物を貢献するが、
娘はそうではない。
全てにおいて男子優先のこの世界では、初子が女子だった場合に
これを「風に帰す」よう指示する夫が多かった。
授乳中は月経が止まり、排卵しないため、
次の妊娠をするのに時間がかかるからだ。

〈灰色の鳥〉の妻が娘を出産したとき、かれは当然娘の殺害を考えた。
〈筋肉〉はこれを押しとどめ、将来自分の息子の妻にするから
娘を養育せよと要求する。〈灰色の鳥〉が婚資ほしさに、
娘を殺さずに育てるだろうと踏んだからだ。
〈灰色の鳥〉は、娘を殺すことはあきらめたが、
代わりに呪いをかけた。
娘に名前をつけなかったのだ。
名前がないということは、心がないということ。
悪い精霊に好かれ、周囲の人々に悪運をふりまくかもしれないのに。

娘は、長い虐待の日々ののち、遅い初潮を迎え、
成人の女として村人に祝われる。
その日、〈灰色の鳥〉はついにかの女に名を与えた。
「だあれ?」という質問のことばである、〈誰〉と。
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前作に引き続き、〈灰色の鳥〉のうざいこと(笑。
もうね、〈短身族〉との戦いの際に殺しちゃえばよかったと思うくらい(笑。
今作では、〈古に遡る〉を超える彫刻家だと自称して、
ついでにシャーマンであるとも自称して、狩りにもろくに出ない。
自分が集めてくる食料以上のものを食べている。
相変わらず妻と、それから娘をも虐待している。
バカ息子だけは猫かわいがり。
という、比類なきKYぶりを発揮してはばからないわけですが、
その父から〈誰〉などと名づけられた主人公が遭遇する、
〈黒曜石〉に勝るとも劣らない苛酷な運命。
生まれたときに〈筋肉〉と〈灰色の鳥〉が交わした約束に従い、
〈筋肉〉の息子の妻となった〈誰〉。
それは昔から密かに心寄せていた〈ナイフ〉ではなく、
〈血〉であった。〈ナイフ〉は、母方の祖父の〈クジラ狩り族〉の
村へ、クジラ狩りの方法を学ぶため、送り出されることになっていた。
別離の前の晩、互いに思いあうことを確認する〈誰〉と〈ナイフ〉。
しかし〈筋肉〉や〈血〉たちが〈ナイフ〉を送るために海に出た日、
〈誰〉は交易商人を自称する弟の手によって誘拐され、凌辱され、
奴隷として売り飛ばされてしまったのだ。

うううーん。
〈黒曜石〉も〈誰〉も、どうしてこんなにもつらい目に遭わなければならないのか。
ということの考察については次回作
で。
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★★★★
20090621借
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スー・ハリソン『母なる大地 父なる空』
スー・ハリソン、河島弘美訳
『母なる大地 父なる空  アリューシャン黙示録』
晶文社、1995.10
上巻:第一部 〈黒曜石〉、〈古に遡る〉に出会う、226p、1600-
下巻:第二部 〈黒曜石〉、〈筋肉〉に出会う、250p、1600-


紀元前7000年、氷河期のアリューシャン列島、
アザラシ漁を生業とする〈第一等族〉の村で、
〈黒曜石〉は13歳になった。
最年少の狩人でありながら既に多くの成果を挙げている
〈アザラシに忍び寄る〉の婚約者となり、
平和で幸せな日々を送るはずだった。
見知らぬ背の低い男たちが、
〈黒曜石〉たちの村をふいに襲ったあの日までは。
おとなとして唯一生き残った〈黒曜石〉は、乳飲み子の弟〈坊や〉を抱き、
母方の祖父が族長を務める〈クジラ狩り族〉の村に向けて、
冷たい海へ、単身ボートを漕ぎ出した。
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友人に勧められて借りてみた。
なんてマニアックな設定なんだろう、氷河時代の北の海!
しかも北欧じゃないの、アリューシャンなの。
ある意味ものすごくニッチを押さえてるんだけど、
ニッチすぎてニーズが少なさそうな(笑。
しかし、ものすごく精密な考証によって、
その世界が生き生きとあざやかに立ち上がってくる。

13歳の少女のかなり苛酷な半生をたどる第一部、第二部。
なにしろ上巻で家族が全滅して、婚約者に死に別れ、
逃げた先で見つかって敵の一族の男にレイプされてしまい、
下巻はその子どもを出産するところから始まるのだ。
ほんとにジュブナイルなのか?という疑問も含みつつ。

かれらが何を着て、何を食べて、どのようなところに住み、
どのように狩猟採集をおこない、何を愛し、何を信じ、
つまりどのように生活して生きたのか、
ということを中心に、それらのハードなストーリーが描かれる。
出来事は非日常のことばかりだけれど、そういう日々の中でも
人は生きていかねばならず、生きるという行為がどれほどの
ディティールによって構築されているのか、ということが
丹念に描かれるのだ。
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これはすごい。
話もすごいし、訳文も誠実で読みやすい。
久々に寝る時間を惜しんで読了した。
第六部まであるらしいので、さっそくそちらも読んでみよう。

★★★★
20090617借
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日和聡子『おのごろじま』
日和聡子『おのごろじま』幻戯書房、2007.11、
171p、2500-


タイトル借り。
おのごろ島でみとのまぐわいをなし、
国生みを続ける2柱の神。
パラレルで進行する、さまざまな生き物たちの
時空を超えた物語と絡み合いつつ、
逝ったまま戻ってこないいざなきを追って地底へ降り、
その黄泉の国から自力で生還する、
かたわらのいざなきが目を覚ますまでの短い時間の
それはいざなみの冒険譚。

古文調と、ちょっと昭和初期ちっくな文体のコンボ。
ぼーっと読むには体力がいるけど、
作者は詩人だけあって、選ぶことばが深く美しく、
堪能するに足る感じ。

20080531借
★★★
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姫野カオルコ『コルセット』
姫野カオルコ『コルセット』新潮社、2006、221p、1300-

反行カノン/フレンチ・カンカン/三幕アリア/輪舞曲


自分で自宅を掃除し、自分の口に入れるものを自分で調理しなくてもよい
環境にある人たちの、それぞれの生き方。基本的に気怠い。
けど息苦しいまでの恋情、どこにも行き着かない慕情。
姫野がこんなん書くなんて!って感じがちょっとする(笑。
いや、とてもよいですね。
中でも「反行カノン」に1票。

★★★★
2007.6借
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板東眞砂子『13のエロチカ』
板東眞砂子『13のエロチカ』角川書店、2000、284p、1300-

世界の真ん中
ル・スーティエン・ゴルジュ・ブル
ホップ・ステップ
凝るトレーンと魔法の綿菓子
放っておいて、握りしめて
ヴィネツィア発、ニース行
青いリボンの下に
煙草
五分間
ピンクガールの冒険
暗く、長い長い道
かたつむり
私、イタリアへ行くの


雑誌「マリ・クレール」に連載されていた短編集。
性の目覚めに立つ少女、満たされない思いを抱えて夜をさまよう大人、
「欲望される存在」としての自分を意識し始める思春期のとまどいと好奇心、
まあ、そんな感じの話。
ちょっと食傷。
これはあれだな、わたしはたぶん、この人の作品があまり好きではないんだろうな。
以前借りた本も、なんかおもしろく読まなかった気がする。
なんていうか、何かな、自分の中のつまらん自意識を下手に刺激されるからかしら(笑。

★★
2007.4借
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板東眞砂子『月待ちの恋』
板東眞砂子『春話二十六夜 月待ちの恋』新潮社、2004、246p、1600-

第十四夜  夏の鯨
第十五夜  せきぞろ、めでたい
第十六夜  悦楽の夢
第十七夜  びいどろに棲む女
第十八夜  鹿威し
第十九夜  無限の浮世なれば
第二十夜  木の精、川の精
第二十一夜 川底の足音
第二十二夜 羽化
第二十三夜 落花哀惜
第二十四夜 まどろむ猫女
第二十五夜 善光寺聖
第二十六夜 月待ちの恋


北斎や國芳の春画を口絵に、その春画をもとにした短編集。
春画の選定の基準とかはわかんない。
これの前の巻には、もしかしたら書いてあるのかもしれないけど。

ううーん、読んだ感じ、食傷、という気がするかな。
口絵の方がよっぽどおもしろいんじゃないの。
性という営みが、場合によってはひどく滑稽で
もの悲しいものであるとしても、それだけじゃないんじゃないの?

★★
20061229借
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アダム・ヘイズリット『あなたはひとりぼっちじゃない』
アダム・ヘイズリット、古屋美登里訳『あなたはひとりぼっちじゃない』
新潮社クレストブック、2004、286p、20060715借

私の伝記作家へ
名医
悲しみの始まり
献身的な愛
戦いの終わり
再会
予兆
父の務め
ヴォランティア

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藤民央『道之島遠島記』
藤民央『道之島遠島記』郁朋社、2002

マニアックな出版社から出た、マニアックな小説(笑。
作者も作家としてはしろうとだし、はっきりいって全然期待していなかった。
道之島=奄美群島が舞台だから手に取ったようなもの。
いやいや、しかしどうして。
骨太で、とても楽しめた。

タイトルで、奄美に島流しにされた誰かが主人公なのだな、とわかる。
流されたのは名越左源太という、薩摩藩の名家の跡取り。
藩主の跡目争いのとばっちりを受けて、愛妻と幼い子ども、老いた両親を置いて
奄美大島に遠流の憂き目にあう。

主人公は、それをムダにいつまでも悲観するのではなく、
どこにあっても武士らしく、自分らしく、端正な暮らしぶりを崩さない。
そして、自分がいる奄美の自然や人や風俗を、深く愛するのである。
その姿勢は周辺の住民たちにも愛され、主人公の近辺は、流人だということを
忘れてしまいそうなくらい、おだやかな笑顔に満ちていた。

通奏低音のように流れ続ける、薩摩藩による奄美諸島への搾取。
鹿児島に住む人々の、奄美人への蔑視。
それでも鹿児島に憧れ、薩摩によく思われようと努力をする奄美の人々。
その構図は、デジャヴのようにさえ感じられる。
現在の地方と都市の関係でもそうだし、沖縄の、本土へ対する思いとかとも重なる。

思いがけなく、掘り出し物でした。
★★★★★
20060615借。
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